ザ・ダイアモンドDAYS


中庭で、誰だか分からない生徒に告白されて早1週間と半。私は今ひたすらグラウンドを走っている。

これで25周目。35周まであと10周。女バトにテニス部ファンが多いのは塚本先生も知っていることで、
次の日曜日を休みにする代わりに私たちに課せられた課題は土曜日一日練。

普通は午前中だけの練習を午後も行うハードなものだ。

『休みにする代わり、再来週から始まる女バト地区大会、負けたら招致しないよ。』
昼食を限りなく少量だけ取って、すぐに午後のランニングを始めた。

どうやら明日試合の男子テニス部も軽い練習を始めたらしい。
グラウンドを数周している間何人か知っている顔を見た。コート内にはすでにラケットを持っている部員の姿が見られる。

テニスコートフェンス前を通り過ぎるとき、私に気づいた不二君に声を掛けられて脚を止めた。
さん、明日応援に来てくれるんだって?英二から聞いたよ。」

「んー…。まぁそうだね。そうゆうことにしておこうかな。」
「え?」
まさか相手校の応援だなんて言える訳もなく苦笑いした私に不二君は首をかしげた。





「こらーーー!!!!ー!!!!」
塚本先生の鬼の様な声が聞こえて慌てて走り出した。今日のランニング終了まであと3周。






















「すごい人だかりだね。」
青学と大輔の学校の試合が始まる時間に遅れないように妹と家を出た。ついた会場は思ったよりもすごい人だかりで、思わず感嘆の声を漏らした。

「そりゃそうだよ。青学のテニス部って他校の女子にも人気だし、氷帝あたりは決勝見越して視察に来てるかも。」
私よりも中学のテニス事情に詳しい奈緒が解説を入れた。

なるべく前方の席を取って、腰を下ろした。各校が陣とっているベンチでは、選手が談笑していたり、階段を使って足を暖めたりしている。
青学とは反対にいる相手校の陣地に大輔の姿を見つけた。落ち着いているのか、緊張しているのか、微笑んでいるのか、唇をかみ締めているのか分からない表情でラケットを握っている。

「大輔君、変わったよね。」
私とペアを組んでいたころの大輔を知る妹がそんなことを呟いた。






ダブルス2つ、シングルス1つで早々と決着が青学側につくだろう、もしかしたら大輔の出番はないかもと思っていたが、何と青学のダブルス2が棄権して、試合はシングルス2に持ち込まれた。

『これが最後の試合なんだ。』とにじませる表情に少し同情をしてしまった。

審判が選手をコールする。
「続きましてシングルス2の試合を行います。皆本中学校。新藤大輔君、青春学園、不二周助君、コート内へどうぞ。」

シングルス2は不二君か、そうため息を吐いた。
青学内でも天才と呼ばれている人が相手だなんて、大輔の引退は彩られたものだ。

コートに入った2人、眼差しだけは大輔も負けていない。





「まさかお前が最後の相手とはな。」
「久しぶりだね、新藤。」
コート内で何やら話をしている二人に目を細めた。何を話しているかは分からないけれど、お互い知り合いなのだろうか、そんな雰囲気が漂っている。


「遠慮はいらないぜ、不二。」
「分かってる。」


不二君のサーブから始まったシングルス2。誰が、皆川中がこんなに健闘すると想像した?

どんなに振り回されても食らいつく新藤大輔に、観客席からは拍手が送られている。

「大輔ーーー!!!!!負けんな!!!!」
思わずそう叫んでいた。同じ会場にいた女バトの後輩達が私服の私に気がついて「先輩、相手校の応援ですか!?」と笑ってる。
大輔の耳にも届いたらしい、こっちを向いて本当に素敵な笑顔で笑う。

不二君は私を見て、キョトン、とした表情をみてやっぱり笑った。
コートに立つ2人は今、テニスを心から楽しんでいる。

あの天才、不二君の息が上がっていることに、テニスを良く知っている人間ならとっくに気づいてる。

「こんな楽しい試合、久しぶりだよ。」
こんな言葉、不二周助に言わせたのは、きっと大輔が初めてだ。









食らいつく大輔に、不二君が本気で責め始めた。
「まさかこれを地区大会で使うなんてね。」


そう言った直後、大輔が打ったスマッシュが一瞬で、返され後ろラインギリギリに落下する。
「出た!不二先輩のトリプルカウンター!!」そんな声が青学ベンチからする。






あまりにも綺麗なカウンターに背中が鳥肌に襲われた。



「今の、昔どこかで。」
奈緒が記憶を探るかのように呟いた。彼女が思い出すよりも早く回転した私の脳。

体は思わず立ち上がり、コート内に立つ不二周助という選手に目を見開いた。


「まさか…。」

薄く目を開いた不二君が、反応できない大輔を見て、そして私を見て、「バレたかな。」と少し笑った気がした。