ザ・ダイアモンドDAYS
「最近、ギャラリーが多いよね。特に男共!これも効果かな。」
ダブルスのパートナーでバトミントン部部長の佐々木久美子がケラケラ笑いながら、クリアーを飛ばしてきた。
確かに、観客用に設けられた椅子に座り、私たちのコートを見ている男子生徒は多いような気がする。
男子バトミントン部に女子が群がっているのはいつものことだけど、その逆は今までなかった。
プレイ中の姿を人に見られるのは好きじゃない。
「はーい次、1年ドロップ、2年クリアー、3年はスマッシュの練習ね!、上げるよ!!」
「オッケー。」
最近得意のバックスマッシュに、スピードと角度だけじゃなく、カットを少し入れる練習を始めた。
これが完成すれば、地区大会でも結構な武器になるはずだ。
だけどまだコントロールが完璧じゃない。
今日もほら、左シングルスラインぎりぎりに入れようとしたシャトルが、カットを入れすぎたせいでスピードをつけたまま遙か左へ飛んでいった。
50球打って成功は43球。これじゃまだ地区大会では使えない。
今年は3年最後の夏、絶対に全国に行くんだ。
言っている側から、ああ、また失敗。
着地と同時に、少し目に走った刺激に、私は目を強く閉じて、次に目を開いた時の違和感に、やばい、と一言漏らした。
同時に部活終了時刻の合図のチャイムが鳴る。
そしてネットを片付け始めた1年を止める暇もなく、私はラケットをバックに投げた。
「右のコンタクト外れた。」
以前着けていた牛乳瓶メガネは、なにもレンズの性能が悪くて牛乳瓶になったのではない。
私の目が悪すぎるのだ。めがねを買うと、レンズも安いものから高いものまでいろいろある。
高いものはもちろん、厚さができるだけ薄くなるようになっていて、見た目は牛乳瓶にならない。
私は高価なレンズなんて望まなかったし、牛乳瓶メガネをかける自分の容姿になんてまるで興味もなかったから、安いレンズを使っていた。
片目0.1ないのだ、メガネやコンタクトなしでは隣にいる人物の顔さえまともに分からない。
そして今、左目にだけコンタクトレンズが入っている状況はとても違和感がある。
片目だけよく見えていて、頭が痛くなってきた。
これは良くないと、左目のコンタクトも外した。
いつもは念のためにバックに入れていた牛乳瓶メガネを今日は家に置いてきてしまった。
何てバットタイミングだろう、残りのアクエリアスを胃に流し込む。
結局何も見えないまま、久美子に階段を下りるのを手伝ってもらって、左右に揺れながら、呼び出された中庭に向かった。
どうせ断るだけだから、そう安心していたんだ。
そろそろ18時になるはずだ。
中庭の時計方向に視線を向けてピントを合わせようと目を細め睨んだけれど、やっぱり時間もよく分からない。
ベンチに掛けて数分、右の方から上がった息遣いが聞こえて立ち上がった。
誰か立っているけれど…顔が分からない。
「さん、ずっと好きだったんだ。付き合ってもらえませんか。」
今日下駄箱に入っていたメッセージの字を几帳面な字、と思ったことを思い出した。
あの字に、丁寧な告白、相手はもしかしてまた年下だろうか。
それよりも『ずっと』という言葉に違和感を感じた。私が告白され始めたのはつい最近のことだ。
この人はその前の私を好きだった、と言っているのだろうか。
いや、そんなこと絶対ないか。
「君がテニスをしていたころから、好きでした。」
は!?
「ちょっと、それって何年前…。」
「返事は急がなくていいから。じゃぁ、また。」
「…。」
というか君だれ!!??
そう聞く前に、相手は走っていってしまったらしい。
なんて馬鹿なんだ、自分。こんな日に限ってド近眼状態なんて!
明日この話をして、親友2人に大笑いされる自分の姿を想像しながら、学校を後にした。
風呂に入ってても、ベットで横になっても今日の「彼」について様々な疑問が嵐のように浮かんでくる。
明日は寝不足登校必死だな。
そんな覚悟をしながら何とか脳みそを寝かせようと羊が一匹、羊が二匹を試みるのだった。