ザ・ダイアモンドDAYS


ー!飲み物きたよー!』
テニス会場でそう叫んださんの声が、耳を通過して腰に響いた。まさか、そう思った。
レモンティなんて稀なリクエスト誰がしたんだろうと思っていた。まさかが来ているなんて思わなかったから。

「ありがとう。」
缶を受け取る時の彼女の声は、しっかり芯が通っていて、久しぶりに聞いたその声が聴覚を刺激した。

そして缶へ伸ばされる指。僕が彼女に綺麗だといった手。

そのすべてを視線は捕らえているのだけれど、感情はまるでそこにないみたいに放心状態だった。
驚きすぎて体が動かない。何と声をかけていいのかも分からずに、ベンチに戻る彼女の背中を凝視していた。

私服で普段よりも大人に見える彼女が、3年前自分が好きだった彼女ではもうないような気がしたんだ。



「いいデータがとれそうだ。」
隣で笑う乾は僕の表情をメモしているようだった。
そして背後でよっしゃ、とガッツポーズするさんと英二は本当に楽しそうで、なぜか、僕だけが過去の空間に置いていかれた気がした。

を応援すると彼女の母親は、前方に座っていて、正直試合よりもそちらに目を奪われていた。

たまに母親の顔を見る君の横顔に釘付けになった。

その顔は笑っていて、3年前の面影をも落としている。




「次は不二君の番だね。」
そんな僕に気が付いたさんは、笑った。























「あの人、のお姉さんだってよ!めっちゃ可愛いな!彼女にするならやっぱりああいう人じゃないと。」
そんな声がカラオケ中は後輩が座るあちらこちらから聞こえた。

「不二先輩もそう思いません!?」
僕と彼女の関係を知らない中学のレギュラーが問いかけてきた内容に、僕は苦く笑うことしかできなかった。

「じゃぁ次は私、のデュエットです!」
スピーカーから響いた名前に反応したからだが、自然と彼女のほうを向く。

「上手いな。」
「うん、本当に上手ださん。」
「これがあの絶対音感ってやつっすかね。」
「どうだ、不二感想は。」

の歌を評価し合う手塚、大石、桃に乾の視線が一気に僕に集められて、僕は飲んでいたドリンクをテーブルに置いて一つ溜息を漏らした。


「…うん。上手だよね。」
そんな客観的な回答しか返せない。
レモンティを手渡したときの反応できなかった自分といい、彼女が踏み出した一歩についていけていない自分を嫌なほど感じる。


一度突き放した彼女を思うだけで良いなんて、見ているだけでいいなんて全部自分の行動を正当化する言い訳でしかなかった。

本当は取り戻したくて、また腕の中に収めたくて、なのに行動に移せなかったのは拒絶されるのが怖かったからなんだ。










新しい一歩を、未来を踏み出せなかったのは僕だった。