ザ・ダイアモンドDAYS


週末は見事な快晴と、スポーツの秋という言葉にふさわしい天気に恵まれた。

「すごいギャラリーね。、緊張しちゃわないかしら。」
「そんなの慣れてるでしょう。レギュラーだもん。」

母親と並び、青学VS六角中の交流試合の会場へ足を運ぶ私たち。テニスコートに向かって歩く人間の多さに驚いた。
その中には氷帝学園のレギュラージャージを着ている団体が女子生徒から歩いているだけで歓声を受けていて、これは相変わらずだな、と内心呟いた。


コートに向かう私達の前方から来る4本の足。その持ち主達の顔に、私の足が止まった。
相手2人も私に気がつたらしく、動かしていた四肢を嘘だろう、とパタリと止めた。

「…さん?」
「これはこれは。お久しぶりです。」
あの人と、血を分けた裕太君は持っていたコーラの缶を地面に落っことした。

「こんにちは。美月君、それに裕太君。」

「見違えました。お綺麗になられて。」

「美月さん、褒めても何も出ませんよ。」

私達のやり取りを見る裕太君は、成長してさらにお兄さんに似てきたようだ。少し、面影が重なった。

「こちらはお母様ですか?お母様、君はぜひ我がルドルフ高等部へ。今日は彼を勧誘するためにきているのです。」

「まぁ、それはそれは。」
遅れて頭を下げた母親に、裕太君も深くお辞儀をした。
そのお辞儀の意味を本当に分かっているのは、私と本人くらい。

軽い世間話をして、手塚君と待ち合わせをしている場所へ歩き出したとき、パシッっと裕太君が私の腕を掴んだ。
「あのさん。…その、兄貴のこと…すみませんでした。」




さんみたいな人が義姉ならなぁ。』昔、彼の家にお邪魔したときに偶然帰っていた裕太君が言った言葉が蘇ってくる。


「…ごめんね。私、あなたのお兄さんを傷つけてしまったみたい。」





































『…ごめんね。私、あなたのお兄さんを傷つけてしまったみたい。』
確かに彼女はそう言った。昔よりも痩せて、表情には疲れが見えた。それが大人になった彼女を更に大人に見せていた。

傷つけられたのは彼女のはずなのに。
一方的な兄貴にどん底に落とされた本人が、どうすれば相手のことを守るようなことが言えるのだろう。


「努力したんでしょうね。」
美月さんが彼女の背中を見ながら呟いた。

「高校1年の全国大会、あの不二君がレギュラーの座を落とす原因になった女の子ですから、彼女のことはかなり調べました。かなり、壮絶な学生生活をしたみたいですよ、特に高校では。」

「…はい。」
聖ルドルフ高校に入った去年の秋、青学まで兄貴を迎えに行った際、彼女を見た。
今とは比べものにならないほどに暗い影が表情に見えた。同一人物だと、分からなかった。


気づかせてくれたのは兄貴。
だよ。』
『え、どこ?』
『今そこを通った子。』

嘘だろ。そう自然と口から漏れた。あんなに、あんなに幸せそうに笑う子が、ああなってしまった原因を作ったのは紛れもなく兄貴。

俺は兄貴を責めたかった。でも、彼女が消えた方向へずっと目を向ける兄貴を見ていたら責めるなんて出来なかった。



今日、見た彼女は兄貴と付き合っていた頃に少し似ている。美月さんが言うとおり、努力したんだろう。
「良かった、さん。」

そう言う俺の背中を、一度大きな音を立てて平手打ちした美月さんもどこか安心した、と言う表情を見せていた。

「さ、今日は君の勧誘です。裕太君からも一押し頼みますよ。」

「は、はぁ。」




































「手塚君、お待たせ。」

「青学側の最前列を取ってある。行こうか。」

が来てるって知ったら喜ぶわよ。」
お母さんは相変わらず楽しそうで、まるでピクニックに来た子供のように無邪気だ。

、大丈夫か。」
手塚君の気遣いに首を立てにしっかり振って、ベンチ方向へ歩き出す。





外接のスピーカーから青学と六角中の選手集合を告げるアナウンスが大きく響いた。