ザ・ダイアモンドDAYS
『言っておくけど、謝らないで。』
英二は、さんとの過去の話を一区切りさせたところでそう言った。
『あー、すっきりした。不二の前では過去の話この2年禁句にしてたからさ。』
『英二…。』
『これで俺が隠してることはもうないよ。ちゃんのおかげでようやく一歩踏み出せた。俺はもう後悔したくないし、自分に素直でいたい。じゃないと不二、おまえにお説教なんてできないからさ。』
クルリと一回転して晴れ晴れとした表情で語る英二は枷からようやく開放されたように目を輝かせている。
『俺と彼女、今週末ちゃんに会う。で、今言ったこと話すよ。あの子が前に進めるように。』
さんはきっとあのアルバム製作の夜の斎藤君の言葉に刺激されて、行動に移す気なんだろう。
『不二、おまえはどうする?』
こんなに心を抉られるような質問を自分が受ける日なんて来るとは思わなかった。
「あの日」から今まで、もう彼女を見守るだけでいいと思っていた。
何も望まない。あの子が平穏に過ごせるなら他に何もいらない。
結局僕の行動で、彼女は心を閉ざして別人のようになってしまったけれど、それでも僕といて理不尽な被害に合うよりは良いんだ、そう思っていた。
「不二君、このままで本当にいいの?」
委員会の帰り道、あの楽器屋でさんが投げかけた質問をこの数週間自問している。でも答えは見つからない。
見つかるわけないんだ。
『もう、何かを望む権利なんて、僕にはないんだよ。』
取り戻したい、そう思っても行動に移せる立場に僕はない。
一方的に突き放し、心に傷を負わせてしまって、今更やっぱり、なんて都合がいいにも程があるだろう?
英二がと会うといった土曜日の夜、知らないアドレスからメールが一件来ていた。
『です。菊丸君にアドレス教えてもらったの。私、不二君に謝らなきゃいけない事があります。
不二君が夏のコンクールに来ていたこと、一緒に帰ったときの会話をに話しました。
口止めされていたのにごめんなさい。』
そして数行の空白の後、PSと書かれた段には
『、きっと大丈夫だよ。』
そう短く綴られていた。