「やっぱり恥ずかしすぎる。」
2年A組の教室で、丸井は頭を抱えジャッカルに泣きついた。今日は新入生歓迎会、テニス部レギュラーはこの教室を衣装替え室として占領している。教壇に立って、着替え終わったメンバーを満足そうに見ているのは両部長だ。生贄にされたレギュラー、特に男子部員はそんな2人に恨みの光線を送っていた。
「似合うよ、みんな。」
「あとで集合写真撮ろうね。」
カメラ持って来た、と制服のポケットからデジカメを取り出したに目元を引きつらせる一部の部員。どうか、画像映像には残りません様に。心からそう願っていたのに。
「なんでよりによってセーラームー○?!男がやるもんじゃねいだろい。」
「衣裳屋で言っただろう?ウケそうだからだよ。」
絶対零度の笑みで部員の文句を一刀両断にする幸村にこれ以上異議申し立てを言える度胸のある人間なんていない。
「丸井君。今日は本番ですからこの期に及んで却下は効かないでしょう。」
セーラーマー○ュリーの衣装を着せられた柳生が生足を組みながら丸井に諭した。
「しかし女子は似合うのう、ミニスカ。」
「ってか何で仁王がタキ○ード仮面なんだよ!ずりーぞ!」
「仁徳の差じゃ。」
チビムー○の陣内麻紀、セーラープルー○の道明寺琴音、セーラービー○スの浜野奈々はどこか楽しそうだ。セーラーウラ○スの細野春希だけは丸井の肩に手を置いて「諦めよう。」と自分を説得するように呟いていた。セーラージュ○タ−のジャッカルは自分のセリフを念仏のように唱え暗記を試みていた。
ガラガラ。
トイレで着替えていた柳が戻って来た。データノートを手に、セーラーネプ○ューンの衣装を着て。教壇に上がっていたは目をパチクリと柳を頭の先からつま先まで見て、本人の前に行く。そして次の瞬間には柳の胴体をの両腕が抱きしめていた。
「すごく似合ってる。」
「そうか?」
それは良かった。柳はの眼を見てそう言った。部活中には滅多に見ることのできない柔らかい表情だ。
「あ、柳君ずるいー!ちゃん私もギューして!」
「…仲が良いんだね、柳とさん。」
幸村は先ほどまでの柳とのやり取りを見て、春希にそう零した。あの柳が、あんなに気を許すのは珍しい、と付け足して。春希はじゃれあっていると麻紀に視線を送りながら「同じクラスだからな。」と短い返事を返す。反応を返さない幸村に「きっと、柳はを良く理解している。」そんなことを言った。
「それより月野う○ぎはどこだ?」
暗記を終えたらしいジャッカルが「真田はどこだ。」と隠語で柳に問う。「ああ、カツラに手を妬いている。もうすぐ来るだろう。」まさかあの真田がセーラー○ーンの格好をして全校生徒の前に立つことがあるなんて、どの教員が予想しただろうか。
5分後には合流した真田の姿を見たメンバーからの爆笑の声がようやく止み、時間は残すところ15分。体育館に向かう直前、はメンバー全員に集合を掛けた。
「じゃ、最終確認。柚子がナレーションでテニス部の紹介をする。音楽が鳴ったら私と幸村くんがボールを送るから、みんなは飛んで来たボールをセリフ付きで打ち返す。大丈夫だと思うけど見ている生徒の方には飛ばさないで。」
「「「「らじゃー。」」」」
「よっしゃ、やってやるぜ。セーラーマー○!!」
さっきまであんなに嫌がっていた丸井に火がついた。自分の役は真田のに比べたら何て事無いという事実に気がついたのだろう。真田は真田で嫌がっても最後にはやってくれる男だ。それ見越して、主役は真田と提案した幸村には首を縦に振った。
その15分後には両部長の思惑通り、体育館で悲鳴と歓声が上がった。