衣替えも終わり、部活が終わる時間になると焼き芋屋が学校の前を通るようになった。おじちゃんに甘そうな焼き芋を選んでもらって500円を渡す。その暖かい焼き芋を持って、レギュラー&マネージャー会議だと、学校側のプロミナーデで海を眺めながらみんなで赤い空に目を細めた。
「焼き芋が美味しいってことは、もうすぐ冬だねぇ。」
レギュラー一焼き芋が似合わない女、浜野奈々がフォークをイモに刺しボソリと呟く。
「奈々、焼き芋はカジルものだろう。」
そのフォーク何処から出し出したんだと春希が笑う。
「それにしても神奈川は暖かいです。」
「そっか、祥子チンは北海道出身だもんね。」
「はい、あっちはもう雪が降ってるかな。」
「リコちゃん、焼き芋おいしい?」
「はい!とっても!」
「それより冬と言ったらクリスマスとバレンタインよ。さん、男子レギュラーに女子から何かプレゼントとかするんですか?特にバレンタインとか。」
「いやー、あげなくていいんじゃないかな。なんだかんだ男子はみんな相手持ちだし。」
愛美ちゃんに話を振られたが却下と言う。きっとがめんどくさいだけなんだ。でも言う通り、なんだかんだ男子はちゃんとした子から貰う当てがある。私も仁王君に何をプレゼントしようか数週間前から考えているけれど、アイディアがなかなか浮かばない。
「麻紀ちゃんは手作りのマフラーあげるんだよね。」
ねー、と麻紀ちゃんと笑うが2つ目の焼き芋を食べ始めた。麻紀ちゃんはサッカー部の彼氏さんに手作りマフラー・・・これはレベルが高い。
「由里亜はジャッカルに何あげるの?」
「それがまだ考え中で・・・でも24日は一緒に映画に行こうって。」
ヒューヒューと茉莉亜が赤くなった由里亜に口笛を鳴らす。こんなに可愛い子とデートなんてジャッカルも隅に置けないな。
「は24日何をするんだ?」
一番聞きたかった部長への質問を投げかけたのは予想外にも春希だった。待ってましたとミーハーなメンバーがその視線を焼き芋にかじりつくに送る。
「んー。夜は跡部財閥のクリスマスパーティに呼ばれてる。」
え。
ええ。
「「「「「「ええええええ?!」」」」」」
「ちょっとあんた幸村君は!?」
慌てる私を怪訝そうに見たが芋から口を離す。事情を知っているらしい琴音ちゃんが笑った。
「・・・幸村も、真田と琴音も呼ばれてる。青学の部長とか、テニスで景吾に関係してる人はみんな招待されてるみたい。」
「じゃぁ真田夫婦とダブルデートってことだ!」
麻紀ちゃんがすごーいと手を鳴らす。
夫婦といわれた琴音ちゃんの頬が真っ赤なリンゴ色に染まった。
「俺、馬鹿脇から何か貰えると思います?」
着替えでざわつく部室の中、隣のロッカーの赤也が頬を膨らませて俺に問う。その呟きを耳にしていたレギュラー一同が、赤也に目を向けた。
「なんじゃ、お前さん宮脇其の一が好きなんか。」
「ちょ、違いますよ!!」
「だったら何でそんなこと聞くんだよぃ。」
「そ、それはその・・・、あーもういいっす!柳先輩今の忘れてください!」
ギャー、と慌てて物をロッカーに押し込む赤也を一同が笑う。弦一郎だけは下らん、と着替えをテキパキと済ませていた。
「ジャッカル君はクリスマス由里亜さんとお出かけですか?」
「ああ、映画に行く約束をしている。」
シャアシャアと言うジャッカルに、赤也が目を丸くした。宮脇茉莉亜と由里亜は従姉妹同士というが、顔も似ていなければ性格は天と地の差で、特に茉莉亜を相手にしている人間は由里亜を相手にするより何十倍もやりにくいことだろう。
「そういうお前さんは細野とデートか?」
「いえ、そういった約束はしていません。もう少ししたら声を掛けてみようかと思ってはいますが、何せ冬休みも生徒会の仕事がありまして。」
「女より仕事っすか!先輩それでも男っすか!!!」
「くだらん。」
「真田副部長はいいっすよ!もう奥さんいるし!」
「な、あれは妻などではない!!」
「ほらッ!もう琴音先輩をあれって呼んでる時点で夫婦でしょ!」
「ふ、あははは。」
赤也と弦一郎のやり取りを部誌を書きながら聞いていた精市が笑う。腹を抱え、どうやらツボに嵌ったようだ。
「幸村君はクリスマスどうするんだ?安藤が今年は絶対一緒に過ごすんだって俺のところまで言いにきたぜぃ。」
「安藤が?いや、俺は先約があるからそれは無理かな。」
「もしかして先輩とデートとか!?」
「ああ。彼女とその真田夫婦と跡部家デート。」
「「「・・・・・なんじゃ(すか)それ?」」」
「デートではない、公式に招待されているのだ。」
「でもドレスコード守って来いって言ってたし、ペアで招待されたんだからデートなんじゃない?」
「し、しかし。」
本人は気づいていないかもしれないが、顔が赤い。
「真田副部長ってデートって言葉に免疫ないっすよね。試合中に『琴音先輩とデート!!』って叫んだら怯みますかね!?」
耳元でコソコソ言う赤也に頷いた。問題児の閃きも侮ったものではない。
「それは94%の確率で有効だ。」
冬が来る