One for All









One for All



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どうにか隠そうと努力するものほど、バレる時が簡単なモノはない。
「あーあ」と思う反面、今私を問いただしている人物が意外すぎて驚いてもいる。気づかれるとすれば柳、そう踏んでいたのに。私の予想は大外れだ。


「いつからヤラれてんっすか?」
正確には覚えてない。

「このこと幸村部長は知ってんすか?」
彼が知る必要があるのか。

「何で先輩が狙われてんすか?」
なぜか男子部長と付き合っているってことになっているらしいから。

「誰なんすか、これやったの。」
確証はないけど幸村ファンクラブってやつじゃないか?

「先輩もやりかえしてくださいよ!らしくないすよ!」
私らしくない、って何?



2限が終わった10分の休み時間に茉莉亜に呼び出された。昼休み体育館の用具倉庫に来いと半場命令の様な文面に何事かと来てみれば、これだ。突然開始された怒涛の質問攻め。答える間もなく次の質問が飛んできた。お陰で答えなくて済んだのはラッキーだった。これが柳や琴音だったら、一つ一つの質問に分かる限りの答えを搾り出すように要求されて、全て話し終わるまで開放されなかったはずだ。


一方的に投げられた質問の嵐が突然止んだかと思えば、マットの上に座らされ、突きつけられたのは透明なビニール袋。その中には、統一性のない紙屑が入っていた。
「体育の時間外で拾ったんす。馬鹿脇に見せたら字に見覚えがあるって・・・。」

先週盗まれた国語のノートの残骸だった。

「マリアは観察力のある子だね。ありがとう。なくて困ってたんだ。ってこんなんじゃもう使えないか。」
ははは。変な虚しさに笑いを起こす私とは正反対に茉莉亜はクソ真面目な顔をしてダンッ!と大きな音を立てて硬いマットを両手で思い切り叩く。座っていたマットに与えられた衝動で身体がガクンと横ぶりした。

「先輩!!!」
「何も見なかった、拾わなかった。そうゆうことにしておいて。」
「「嫌です!!」」

顔を真っ赤にして頬をパンパンに怒る茉莉亜がもう一度マットを揺らす。興奮しきった彼女にどこから取り出したかも分からない冷ピタを貼り付けるキリハラ君。私はこの2人が協力し合って何かをしているところを初めて見た。天敵同士が手を組むと、予想以上に強くなったりするものだ。

そんな勢いづいた2人に追いつめられる私。ああ、私はなんて説得力のない人間なんだろう。



「だってこのままにしてたら・・・。」
拳をにぎる茉莉亜が噛み締める歯が見ていて痛い。

「先輩はまた月ヶ丘の時みたいになってもいいんすか!?!!?」
倉庫から体育館まで響いた声。反響したそれが木霊して何度も同じ質問を私に問いかける。彼女の言うことは正当すぎる。できれば部活のメンバーには知られたくなかった。だから、2人を説得してここだけの話にしてもらおうと考えた。だけど頑固な1年生はそれを許さない。

関東大会、月ヶ丘女子と氷帝学園が対戦した日。機嫌を損ねた月ヶ丘の先輩に言いがかりをつけられた私を見ていた茉莉亜。彼女は終始相手に飛び掛る勢いだった。怒っていたし、私が立っていた理不尽な光景をとても悲しんでいた。今もあの時と同じような表情をしている。

ここまできて「イジメ」なんて起きてませんよってこの2人に白を切ることは無理に等しい。

「先輩!!!」
それに何よりあの気丈な茉莉亜が今にも泣き出しそうな顔をし始めたから、





「それは・・・良くないね。」

私は観念して首を振った。
















緊急会議、そんな聞いたこともない収集が放課後1年によって掛けられた。1年C組、切原赤也と宮脇茉莉亜の教室に呼び出されたテニス部の一同。大胆にも1年が招集を掛けるなんて前代未聞だ。

「あとは任せたぞ。」

集まりに応じるよう幸村君と真田君を説得したらしい柳君が切原君の肩を叩いて、ロの字に机と椅子を組み、座るよう私達に促した。
腕を組む真田君はまだこの集まりに納得がいかないようで、目じりを引き上げムスッと幸村君の隣に腰を下ろしている。その眼光の強さは黒板に何かを書き出した茉莉亜を今にも怒鳴りつける勢いだ。不意にジャッカルの隣で一つ欠伸を?いた仁王君。ガムを膨らましては潰す丸井。私の目の前に座る幸村君はぼーっとしているのか、微動だにせずじーっと黒板を見てる。誰も何の収集なのか全く分かっていないから、気が引き締まらない。教室内に個々の緩い雰囲気が溢れかえる。



先輩イジケについて。』



何とか読めるマリアの書体で黒板にかかれた文字。名指しされた人物に、全員の視線が注がれた。
がいじけてるのか?」
さらに緩んでしまった教室の空気。ジャッカルが頬肘をついて目を丸くした。

「おま!馬鹿脇!!!」

慌てる切原君に、状況がイマイチ読み込めない一同。は何も言わない。目の前の机に向けられる瞳。瞼は下げられ誰の事も直視しようとしない。長い睫毛が若干の動きを見せていた。
「うっせ!ちーっと間違えただけだろうが!!!」
切原君に黒板消しを投げつけた茉莉亜が素手で『ケ』の字を消して、乱暴に『メ』の字を書いた。


瞬間、みんなの呆れた表情が変わった。

スイッチが入った様に、はっと再度を見る。
教室の和みが一瞬にして消滅する。


「イ、ジメ・・・?」

ドンっ!椅子を引き飛ばして立ち上がったのは私。幸村君の3つ隣、麻紀ちゃんと祥子ちゃんの隣に座るの視線が『落ち着け』そう訴える。無言でゆっくり左手を広げ、見せたの綺麗な指に『あの頃』と同じような傷がついていた。


「その傷っ!、あんたいつから・・・!?」
「1学期。」
ざわついた教室内。冷静なのは呼びだした1年と、だけだ。


「これ、昨日俺とワカメが拾ったもんす。」

見せられたのは、破かれたノート。ふぅ、と軽い息を吐き出したは腕組み、長い脚を伸ばし一度天井を仰いだ。その彼女に無言で近づいたのは真田君だ。バンッ!!脇からの座る机を叩いた真田君は怒っていた。

「なぜ言わなかった。」
ボーっとした視線で彼を見上げたの瞳は真田君を映しているのか。それよりももっと他の何かを見ているような印象を受ける。真田君は机の上で拳を握り、それを震わせている。「お、おい!殴んなよ!?」丸井が大声を上げた。
状況が悪化しそうな兆しに反応した琴音ちゃんが彼を止めようと席を立ち上がろうとするけれど、仁王君が彼女の手を取ってそれを止める。

「もう一度聞く。なぜ言わなかった。」
2回目の発言はいつも怒ってばかりいる彼からは滅多に聞くことのできない少し悲痛な声だった。真田君が考えていることが、分かる。他の皆も同じように思っているから被害者であるに攻め寄る彼をすぐにでも止めようとしない。


私達、俺達は信用されていないのか。

きっと、誰もがそう考えている。




重い教室。外は素晴らしい秋晴れなのに、ここだけ大雨が降っているようにひたすら重い。空気の圧力に押しつぶされてしまいそうだ。誰も何も言葉と発しなくなった空間で、幸村君が立ちあがり、真田君の手を取った。

『自分を責めるな、彼女を責めるな』

そう空気で全てを語るこの子の威圧感は絶対だ。普段はニコニコして何にも考えていない様に見えるのに、真剣モードに切り替わるとこんなにも別人になる。チラリとに目をやった彼と、視線に気付いて目を向けた彼女。先にそらしたのは彼女の方。

「リコちゃん、麻紀ちゃん、下の販売機でコーヒー買ってきてくれるかな?」

足を組み直したが、声を上げずに涙を流し始めたリコと麻紀ちゃんを見かねて言った。この教室から出れば2人は我慢してる分思いっきり泣けるだろうし、もこんな2人をこれ以上見たくないのだろう。

「い、行ってきます。」
呆然とする麻紀ちゃんをリコちゃんが促して、出て行った2人。教室の空気は相変わらずだ。



「言っておくけどみんなを信用してないとか、そうゆうのじゃない。イジメが始まった原因?っていうのがクダらな過ぎて言わなかっただけ。」
「・・・まさかあの噂か。」
知ってたんだ、そうが柳君に投げかける。「3年が話しているのを耳にした。」柳君はやれやれとその薄い視線をある人物に向けた。

「幸村。」
若干低くなったも、顔を上げて柳君を同じ人物を瞳に映す。穏やかな顔をしている。



「君と私って付き合ってるのかな。」


彼女の爆弾発言に、げぇっと『幸村君の気持ち』を知る人間の身体から嫌な汗が湧きあがった。幸村君は目を大きくして、を見る。彼の答えを待つ彼女は薄笑いさえ浮かべていた。『バカバカしいよね。』そんな顔。『付き合ってない』って答えを100%確信しているからできる表情だ。

っていうか大勢の前でそんなこと聞くなよ!幸村君が答えずらいじゃないか!!
本当空気読めないこの子!!どんだけ!?

「み、みんな!!喉乾かない?一回出て下に飲みもの買いに行こうよ!」
「あ・・・ああ。そうだな。」
「お、おれも!喉乾いたッす!」
「賛成だぜい。」
「弦一郎さん、ご一緒しましょう?ね?」
「ああ。」
「「わ、私達もリコちゃんと麻紀先輩の様子見てきます!!!」」
「柳生、この前借りた120円飲み物で返してもいいか?」
「もちろんですよ春希さん。では行きましょうか。」



ガタガタッ!!!
一斉に立ちあがって教室を逃げるように出て行った私達を見るの視線はやっぱり状況を全く把握していなかった。首を傾げて大慌ての私達の気持なんて知りもしない。

天然もあそこまでくると手に負えない。




















「みんな、どうしたの?」

移動販売機の目の前でガックリした私達を見つけた麻紀ちゃんがさっきのと同じように首を傾げた。


















核心