One for All









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『話題を呼ぶためにはやっぱりキャスト。』

10冊用意された絵本が並ぶ図書室の机。毎年恒例だというテニス部の出し物は『演劇』。
夏休みもあと1週間を残すところ男女テニス部のボス集団が海原祭の出しものを話しあう集まりに呼び出された。なんでも今日は琴音ちゃんが足の治療にスポーツリハに行っているらしく、副部長の代りに来てくれと昨日の夜からメールがあったのだ。今日は仁王君、柚子、そして丸井と海に泳ぎに行く約束をしていたけれど、部長命令をそう簡単に拒否するわけにもいかず結局3人も一緒に一度学校に連れてきた。話し合いが終わったら予定通り海に行く計画だ。

男女合同で披露することになった今年の演劇は『眠れる森の美女』。公言の『話題を呼ぶためにはやっぱりキャスト』をモットーに客寄せできる演劇をめざすことになった。その為に、主役の一人、基、王子様に選ばれたのはもちろん幸村精市。女子学生の収集力なら彼の右に出るものはいない。そしてさっきからもめていた女子側。王女様第一候補のが頑なに拒否したためだ。15分、ギャーギャー図書室で声を上げ、役を擦り付け合う私達を額に手を当てて見ていた男子レギュラー。その中の一人、柳君がパンと手を叩いて騒動を一度収集させた。

「希望者がいないのなら、ここは公平に阿弥陀籤で決めたらどうだ?今やテニス部女子部員も校内男子の憧れの的だ。誰が姫役に選ばれても文句はないと思うが。」
「賛成ー!部長籤運ないんでしょ?姫役決定じゃない!」
ナイス、と持って来た大きな浮き輪を天井に向かい放り投げた柚子がさっそく柳君に阿弥陀を作ってくれと催促し始める。

「真田、塩買ってきて。願掛け。」
宙を舞う浮き輪をキャッチした我が部長は相変わらずあの真田君を顎で使える唯一の人物。渋々図書室を出て行った彼を見て、仁王君が「さすがじゃな。」そう無邪気に笑った。




公平に行われた阿弥陀籤。一番最初に阿弥陀を辿ったの線、その終着地を幸村君が開いて彼女はガッツポーズ。
「塩、強力なり。」
王女第一候補が事実上、その任務を回避した。
そして続く幸村君の線辿い。残すところ王女候補に残ったのは私、浜野奈々。それに茉莉亜と春希。3人の名前を見た幸村君が一度持っているシャープペンを止めて「個人的にだけど・・・。浜野さんが当たることを切に願ってる。」そんなことを漏らした。確かに、あの茉莉亜が王女様役をやったら・・・。完璧な王子様、幸村君とヤクザ王女、宮脇茉莉亜のコンビを見たくないと言えば嘘になるけれど、せっかくの劇が茉莉亜によって破壊されてしまう図が容易に浮かぶ。春希は彼と天敵の仲、しかも春希なら王女様より王子様役の方が似合っている。のクラスF組の出しもの、『ホスト喫茶』ではナンバー1ホストポジションに選ばれたとか。ちなみにはナンバー3ホストらしい。

「幸村、こいつは俺の惚れた奴じゃけ。やらんよ。」

丸井とジャレていた仁王君が幸村君に言う。もちろん、幸村君が『役』として私を指名したことを分かっていてもそんなことを当たり前のように言う。あまりにストレートな言葉にボッと頬が熱くなるのを感じた。

「仁王ってかっこいいね。」
顔赤いよ、と私の頬に手をやったが仁王君に向ける。

「好きな子を好きって言える人はかっこいいよ。」

笑い、浮き輪で遊ぶは何の意図もなく素直な気持ちを仁王君に言ったのだろうけれど、幸村君の事情を知る人間は「そうだね。」と頷づく反面、彼が今何を考えているのか探っていた。


















8月27日。夏休み最終週。新学期を待てないF組生徒達が解放された校内で久しぶりに顔を合わせた。全国大会の結果報告や久しぶりの挨拶で始まった一日、クラスの雰囲気に包まれる。此処での私は部長じゃない。テニスプレイヤーじゃない。ただのとして居られる場所だ。集まった理由はやっぱり海原祭。学校が始まってからの準備は遅すぎると、F組の文化祭実行委員、北野ジュリアが収集を掛けたのだ。

「・・・春希、どうしたの?」

その彼女が机に頭をつけて項垂れている春希を指さして私と、一緒に作業していた宮城美里に耳打ちをする。

「ジュリアンノ、春希にむやみに声を掛けない方がいい。どうしたの?って聞くと叫び出すから。」
裁縫作業を器用にこなす美里は手を止めない。彼女の忠告は正解。すでに叫び声を浴びせられ、身をもって体験したようだ。

「テニス部の劇の王女様役になって、精神が壊れた。名付けて『王女様嫌だ病』。命名したのはB組の丸井ブン太。」
「王女様・・・って春希が?!の発案!?」
「いや。阿弥陀籤で決まった。」

「へぇ。でも面白いんじゃない?私見てみたいな。ねぇ、美里?」
「でしょ。には言ったけど春希って男勝りだからイメージは王子様だけど、何気に王女様も似合うと思うんだよね。」

期待は裏切らない。春希は化ける。作戦もある。

「まぁ、テニス部の劇楽しみにしてて。」
「それより。・・・それ、何?」

手に持つホスト衣装を持ちあげて「ホストの衣装でしょ?ジュリアが縫えって言ったじゃない?」そう言うと、2人は憐れむように私を見てその衣装を私から取り上げた。

「本当に・・・料理はやればできるのに裁縫はやってもできないね。」
「これじゃ着れないでしょ。ナンバー3ホストがこれ着てたらただのギャグだから。」
「・・・ああ。」

何がどうしてこうなったのか、ズボンの裾にファスナーを縫いつけていた。




















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