One for All









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「「「「「お疲れ様!!」」」」」
地区大会を優勝と言う形で勝ち上がった祝に琴音ちゃんの家で祝賀会をした。シャンメリーを買い込んで囲うテーブル。マネージャー2人が作った見た目は悪いけれど美味しい手料理を堪能して、みんな話し続けた。まるで女子会。

「すごかったよねー先週のYONE○オープン決勝!」
テレビで試合を見ていたんだと愛美が目を輝かせる。あの試合、は幸村君と行くと言っていた。何でも部長会議がその試合観戦になったんだとか。その話を本人から聞いたとき、効き過ぎる勘が働いて私はの前でニヤニヤ笑わないように勤めた。

幸村君も手ごわい女に目をつけたものだ。

、その試合生で見た感想は?」
「・・・ああ。うん、すごかったよね。」
さっきからデザート用に焼かれたケーキを私物のように目の前に置いて、フォークを入れ続ける彼女が思い出したように言う。でもそれより、と言葉を続けて。

「幸村がうるさくて。」
「「「「「??????」」」」」
「俺ならあっちに打ったよ、とか。今の打球弱すぎないか、とか。私に言ってるんじゃなくて本当独り言でさ。自分のプレイスタイルと違うから言いたい気持ちが分からないわけじゃないけど。」
ちゃん精市君と行ったの?!」
「あ、うん。」

「精市君が彼女以外の子と出歩くなんてめずらしい!」
麻紀ちゃんが声を上げた。そうか、この子は幸村君と久賀さんが別れたこと未だに知らないんだ。事情を知るほとんどの3年が麻紀ちゃんを見ていた。
「麻紀はうといねぇ。」
柚子が本人に聞こえないように言った。

麻紀ちゃんの発言で一つほっとしたことがある。それはA組に『あの噂』がまだ届いてないことだ。先週クラスの友達が立ち話しているのを偶然聞いた関連の話。

『幸村君がF組のさんと手繋いで歩いたんだって!!?』
『え、でも幸村君彼女いるよね?』
『略奪愛だよきっと!』
YONE○オープンの日に2人を見かけた立海の人間がいたんだろう。麻紀ちゃんのように幸村と久賀さんのことを知らない人間は少なくない。そして相手の幸村という人間に好意を寄せる生徒は多い。女の恐ろしさは月ヶ丘の経験から知っている。何も起こらなければいい。そう願った。




「ああ、みんな。言い忘れてたけど来週の土曜うちで練習試合するから。」

「・・・急すぎです、。」
「それ琴音には言われたくないなぁ。」
「それで、どことだ?」
春希の質問には唇の片端を上げる。レギュラー全員の視線が部長に集まる。ゴクリ、と息を呑み込む彼らとは対照的に彼女は楽しそうだ。


「氷帝学園女子テニス部。」


「おお、玲に会える!!」
「玲直々に頼まれてね。土曜しか空けられないって言ったらそれでいいって言うからさ。」
「いいねー!夜3人で騒ぎに行こうよ!」
「そのつもり。」


「あのー、2人とも話が見えないんですけど。」
柚子がチンチンとグラスを箸で叩いて説明しろと促す。「氷帝って強いの?」首をかしげる麻紀ちゃんに麻里亜が「先輩俺に聞かないで下さいよ。」と返した。
「氷帝学園女子テニス部は今年関東大会に出ていますね。去年までは東京地区でもかなり弱いチームだと有名でしたのに。」
「私達のチームと同じだよ。強い人間が現れたから技術が向上してる。」
ふふふ。笑いが止まらない。これはもしかしたら久しぶりに日本のトップ2人の試合が見れるかもしれない。ゾクゾクする。


「まぁみんな、楽しみにしといて。」
がグラスを上げると本日5回目の乾杯がなされた。
















「死ぬ!!!!!!」
倒れこんだ先で手を地面に叩きつけうなだれる柚子子先輩。
「たーすーけーてー。」
前を行く春希先輩の足にしがみつくチビ先輩。
「・・・・・・・。」
チビ先輩を邪魔そうにしながらぜいぜいと肩で息をする春希先輩。
「つら、い、です!」
負けるか、と言いながらも弱音を吐く琴音先輩。
「月ヶ丘並みになってきた・・・。」
珍しく息を切らしてユニフォームで汗を拭う奈々先輩。
「見んなワカメ!!!!」
倒れそうになりながら相変わらず口の悪い馬鹿脇。
「私、もうギブアップ…。」
そしてその従兄弟。

そんな女子テニス部のメンバーが男子コート前を行く。男子部員は彼女立ちの様子にラケットを下ろして見入っていた。丁度男子部室前で奈々先輩を除く部員が倒れた。奈々先輩は何とか立っていられている状態だ。そんなにハードな練習をしているのだろうか。一番後ろに平然と立ち続けている先輩が「5分休憩!」とメガホンで声を上げた。

「10分下さい!!」
チビ先輩が声を上げた。先輩は優しいから10分くれるんだろうな、そう俺は自分の部長に目をやった。あの人じゃ絶対休憩を伸ばしてくれない。
「じゃ、休憩3分。」
またメガホンを持っていう先輩に「「「ええ!!?」」」と声が上がった。そんな女子テニス部の会話を聞いていたらしい柳先輩と幸村部長は肩を震わせて笑っている。
「彼女なら減らすだろうと思ったよ。」
「そうだな。」
ジャージを肩に掛けなおした部長がこんなに笑っているのを俺は見たことがなかった。
ジャージと言えば女子部長は今日も暑そうだ。長袖長ズボンのジャージに頭には帽子、そしてサングラスをかけている。太陽の光が苦手だと話してくれたことがあるけれど、脱水症状を起こしたりしないのだろうか。



「氷帝はこれを毎日3セットやってる。」
氷帝?何の話だ。先輩の言葉に他のメンバーが顎が外れそうな顔をみせた。
「これを3セットですか・・・。」
「死ぬほどやってるってわけね。」
「負けられない、うん!頑張ろう春希!」
「ああ。負けない!」
「そう、今度の土曜日は負けない。もちろん関東もね。氷帝が3セットなら、うちは5セットやる。」
「「「「「5セットぉ?!?」」」」」

「5セット。二言はないよ。じゃ、3分の休憩終了。次、鬼ごっこで脚力鍛える。私最初オニ、30秒カウントします。水分補給中は捕まえないからドリンクはちゃんと飲むこと。捕まったらキスとかするから全力で逃げてね。」

「『とか』って何!?」
倒れていた柚子子先輩がバッと立ち上がる。大量の冷や汗を流していた。

「いーち、にー、。」
「シカト!?」
一瞬にして駆け出した女子テニス部員。キスなんて冗談だろうに。でもあの逃げようは並みじゃない。



「30。」
体制を屈めて前を見据えるオニ。左足で土を蹴った先輩はめっちゃ早かった。本当に一瞬で見えなくなった。仁王先輩が口笛を鳴らした。


「いいね、あれ。俺たちもやろうか。」
「捕まったら何があるんじゃ?」

「もちろん俺からのキス。今フリーなんだ、なんの問題もないよ?」
ニコニコ笑う幸村部長に、黙り込み視線を逸らす先輩たち。


幸村部長とのキスシーンは想像しただけで吐き気がした。
















「ゆーきーむーら君!!」
一日を締めくくるSHRが終わってざわつく教室に予想していなかった人物が現れた。H組みの浜野さんだ。「かーわいい!」隣の席の男子が彼女を見て言う。ヒラヒラと手を振って笑う彼女がちょっと顔貸してと物騒なことを言う。承諾した俺は、手を引かれ校舎裏の水道に連れて来られた。

「もしかして告白?」
鎌をかけた質問をした。この子は仁王といい関係だと聞いている。告白はまずないだろう。予想通り「あはは、ごめんね君は全くタイプじゃない。」そう笑い飛ばす彼女がのことで話しがあると率直に言う。勘のよさそうな子だとは思っていたけれどもうバレたのかな。
「YONE○オープン楽しかった?」
「ああ。行ったかいがあった。」
といっぱい話した?」
「2人だったからね、それなりには。」

のこと好きになった?」

最後に直球で来たストレートな質問。覗き込んでくる浜野さんは楽しそうだ。俺はラケットバックを下ろして水道の角に腰を落ち着けた。

「嘘を言ってもばれるから正直に言うよ。質問の答えはイエス、だと思う。」
「そっかそっか。それならいいんだ。」
「何がいいんだい?」
「好きな子は何があっても守ってくれるでしょ。」
彼女の意図が分からない。
「ちょっと気になる噂があってね。君、ファンも多いって聞くし。何かあって対処ができないと困るから。」

噂という言葉に顔をしかめた。同時に真剣になる彼女の表情が今から言うことをよく聞けと言っている。『いつでも笑顔が素敵なアイドルキャラ』というのは表向き用の顔で本当のところではなのだろう。仁王は気づいているのかな。
「やっぱり本人の耳には入ってないよねぇ。が久賀さんから君を略奪しようとしてるって噂。最初はすぐ収まるだろうと思ってたんだけど予想が外れた。」

これは忠告。

になにかあった時は守ってあげて。」


















さんおめでとう。」
「ありがとうございます。」
「今年の立海女子テニス部は全国大会も期待できると神奈川のテニス協会関係者がわざわざ校長に会いにきた。」
「そうですか。ご期待に応えられるようがんばります。」

地区予選を1ゲームも落とさずに勝ち進んだ。決勝戦で下した相手は去年の関東大会を2位で通過した強豪。その相手に無名だった立海女子テニス部がストレート勝ちしたのだ、噂にならないわけがない。

「応援しているよ。」
南先生の笑顔はいつも軟らかい。とても教え方が上手くて、どんな小さな生徒の相談にも耳を傾けてくれるまだ若い先生だ。数学の先生でありながら今は3年生の副担任と美術部を任されている。
大きな学校で直接接点のない先生だけれど、なぜかこの人は私やテニス部によく会いにくる。テニスが好きだといっていた。女子テニス部の練習だけじゃなく男子テニス部の様子を見に行くことも多いのだという。名前ばかりで何もしない顧問の長妻先生より、南先生にテニス部を見てもらいとは琴音の口癖だ。
立ち話に区切りが付いたところに丁度チャイムが鳴って、私は次の授業の教室まで走った。


「す、すみません。遅れました。」
「いいぞー入れ。南先生から内線で連絡があったから。南先生は本当テニス好きだよなぁ。柳、お前のとこの男子は全国出場当たり前として女子テニス部も期待してるぞ。細野ぉーお前もな。がはははは!!」
「「がんばりまーす。」」
「もっと腹から声を出すんだ!ふ・く・し・き・こ・きゅ・う!先週教えただろうが!」
「「があああんばあああありまああああああす!!!」」
「そう、それだよ。いい感じだ!」

中野響先生は名前に合わない超熱血教師でラグビー部の顧問。がたいも良くて南先生とは正反対のタイプだ。だがこの中野先生、響という名前をもらうほど音楽家が多い一族に生まれて、担当教科は2学年と1学年の音楽。知ったときは意外すぎてあごが外れるかと思ったけれど、人間、こうゆう多様性があるから面白い。

「よっしゃ、俺は今日機嫌がいい!頑張っている女子テニス部に敬意を表して今日の音楽は中止!第二体育館に集まれ野郎共!スクリーン張って映画上映会だ!」
「「「えー、中ヤン太っ腹―!」」」
「俺は最近となり○トトロにハマっている!DVDは常に通勤カバンの中なのだ。」

春希と顔を見合わたら何だか可笑しくなって、久しぶりに声を上げて笑った。いろいろな人に応援されているのだと、この1週間感じないことはない。担任の柿本先生も女子テニス部が勝つたびにクラスのホームルームで報告してくれる。この学校には生徒のことや部活のことを考えてくれる先生が多い。いい教師に恵まれた学校だなと素直に思う。

「トトロって何?」

委員長の松永に聞くと巨大猫熊とマンモスを交配して出来上がった新種だという答えが返ってきた。
















Music by Rie Fu - Shine