One for All






球技大会エピソード集



One for All



18








卓球

「ま、まさか真田先輩と当たるなんて!!!」
柚子葉に泣きつく女子テニス部1年マネージャー鈴木リコの顔には涙の痕ができていた。昼休み前に発表された午後の対戦表、第二試合に自分の名前を見つけたリコは対戦相手の名前を見て持っていたラケットを落下させた。スポーツという勝利を賭けるものに学年や男女区別はないとさすが部活動に力をいれている立海の方針だ。

「大丈夫だって真田だって鬼じゃないんだから取って食いやしないよ。」
「鈴木、取りこんでいるところをすまんがこれを真田に渡して来てはくれないか。」
後輩の背中を叩き励ます柚子葉と蹲り今だ絶望の淵にいるリコに声をかけたのは同じく卓球に参加している参謀こと柳。柳はリコにスポーツドリンクのボトルを渡し微笑んだ。
「…分かりました。」
おずおず立ち上がったリコは数十メートル先で柳生と立ち話をしている真田のもとへ歩き出す。

「柳、あれ何?」
「青学にいる友人に教えてもらった特製ドリンクだ。午後は俺も真田と当たる予定があるのでな。2年F組優勝の為、危険な芽は今のうちに摘んでおこう。」

数十秒後、卓球会場ではドリンクを吹きだし倒れた生徒が一名。

「貞治よ、お前から授かったレシピが役に立った。」
「…あとでリコが鉄拳食らわされるのどうでもいいと思ってるでしょ。」











サッカー

「どけ―、邪魔だワカメ!!!!!」
「お、おま!!俺は見方だぜ!?」
「どけっつってんだよ!俺のボールだ!」
「サッカーは団体競技だろうが!協力しろ馬鹿脇!!」
「誰が馬鹿脇だこら!み・や・わ・きだ!!!!協力だぁ!?お前からそんな言葉が出るなんてビックリだぜワカメ!!」

「あらあら、相手の3年生があの2人にはドン引きですね。茉莉亜さん、切原君、頑張ってくださーい!」
「…プリッ。」










バトミントン

「ふふ、ジャッカル。私をたかがマネージャーだと思ってかかったのが運の尽きよ。」
「ま、まさかあの桑原君が負けるなんて…。」
柳生は眼鏡を抑えバトミントンコートに倒れるジャッカルを見下すテニス部2年マネージャー律愛美に冷や汗を流した。

(ラケットを操る彼女の技術は並みのプレイヤーではなかった。彼女は一体…。)

「律か。技術でジャッカルを下すとはさすが元Jrバトミントンの選手だ。」
「ちょっと柳過去形にしないでよ。立海のバト部は弱いから諦めたけど心は今でも現役バリバリよ!」

「…柳君。真田君との対戦ではなかったのですか?」
「ああ、だが残念なことに弦一郎が棄権してな。時間を持て余している。」











バスケ

「丸井、目覚ました?」
「…いや。まだだ。」
「無事なんでしょ?気にしないの!ほら笑って!」
「浜野…。」
ありがとう。丸井がそう口にしようとした瞬間、可愛いと男子に大人気の笑顔が真っ黒く変化した。獲物を見つけた毒ネコのような表情にチームメイトは口をポカンとあけて彼女を凝視。

「気にすんな。の代りに、私が残りの時間でB組ボコボコにしてやるからそれでチャラだ。」

応援に来ていた丸井の彼女は持っていた丸井のジャージを哀れなりと握り締めた。















バレーボール

「覚悟、幸村!!!!!今年こそ打ち負かしてくれるわ!」
。君のチームメイト、真田化してるけど大丈夫かい?」




準々決勝 2年A組 VS 2年F組

ネットを挟んで目の前に立つテニス部部長2名。は幸村に言われ背後を振り返る。轟々と闘士を露わにする細野春希に今何か言っても聞こえないだろう。去年の悔しい想いのせいで春希は完全に我を忘れていた。はそんな彼女を見なかったことにした。

幸村はクスクスと笑う。それは春希の機嫌を悪くすると知っての行動。
案の定叫び出したチームメイトを見かねて、はサーブに構えていた体制から身体を起こし、後ろにいる春希に歩み寄った。そんな彼女の行動に、A組のメンバーそして観客の視線が集まる。

「春希。」
「ゆーきーむーらー!!!!」
「…春希。」
パシ、っと彼女の手を取ったは背伸びをしてもう片方の手で顔を包み込む。
くっ付きあう2つの顔。騒がしかった体育館の時が、止まった。

「黙って。今は試合でしょ?」

離された唇。春希はに丸い目を向けて「そうだった、ごめん。」と漏らす。

「な、なななななな!!!ちゃん!!!今、春希とチューしたよね!!したよね!?」
顔を真っ赤にしてコート内を飛び跳ねる陣内はあまりの興奮に男子テニス部部長に身体をぶつけた。陣内が見上げた彼は、口をぽかんと開けて瞬きを繰り返すばかり。彼だけじゃない。コート際にいた男子テニス部部員は部長と全く同じ反応を見せ誰一人として口を開こうとしない、仁王以外は。


「ピョ。」


「「「「いやーーーー先輩!!かっこいい!!!」」」」

「俺、女同士のキス始めてみた…。」
「先輩!!私にもキスして下さい!!」
「春希てめぇずりーぞ!!!!!!」
「引っ込め武藤ー。」
「うっせーぞ松永!!!!!!!」

2人のやりとりに口を覆ってみていたギャラリーがこの日一番の絶叫を響かせ、幸村は何もなかったようにポジションに戻って来たを凝視した。



「さぁ、始めようか幸村。事実上の決勝戦。」

初めて挟むネットはテニスではなくバレーボールだった。

長い髪をヘアゴムで縛るのは本気の証拠。





絶対負けない。彼女がそう心の中で呟いたことは誰も知らない。























球技大会閉幕。