伝説




伝説之






広い、広すぎる。 一体この観覧室の書物を数えたら何冊になるのだろうか見当もつかないし、まず途方もなくて考えたくない。 書物棚は人間3人分はゆうにあるであろう。上にある本を取る時には魔法が使えない人間は、高さを恐れず梯子に登るほかない。 埃にまみれた棚もあれば、頻繁に使用される本が並ぶのであろう、綺麗に掃除されている棚もある。 部屋の中は薄暗くて、壁の灯りなしでは二つ先の棚に並ぶ本も見えないほどだ。 セフィーロに住む者ならば誰もが入室を許されるこの部屋は、異世界の言葉で「としょかん」というらしい。 以前、導師に頼まれものをした海を案内したとき、彼女がその大きさに驚いたものだった。 セフィーロの民が用をする書物は大抵入口に近いところに並べられている。 だけど今、足を進めるのは観覧室奥地、そこに寄りつく人は滅多にいない。 にあの本を預かった時、私はどこに保管するべきか悩んだ。 そして結果、自分がよく借りものをする創術の本が並ぶ棚に隠すことにした。 隠したのは私が一番好きな書物である「創業伝」と「武器加工」の裏。 隠す必要なんて正直なかった。だってあれを読むことなんて誰にもできないから。開かない本に誰が用がある? ただ、が私だけに預けてくれた秘密の本、隠しておいていつか返そうって思ったんだ、当時は。 がいなくなった時、一度この本を取りにここへ来た。 彼女を取り戻す方法があるのではないかと、手を尽くして開けようとしたけれど無理だった。 剣を突き刺しても燃やしても、水につけても状態を完全に保ち続けた本。 あの本に折られた剣の数は両手で数えても足りないくらい。 見かけの割には軽くて、女性が持つモノとは思えないほど古いあの本が一体何なのかは知らない。 導師クレフに助けを求めたが、当時彼は本の存在すら知らなかった。 ここある万という本を読破した「セフィーロ一の知識の泉」が知らない本とだけあって謎だらけだ。 あの本の表紙に細工加工がしてあったことは間違いない。 古びた本なのにまるでさっき掘ったかのような丸い溝が加工されていたから不思議に思っていた。 もしあの加工が「鍵穴」だったとしたら、「鍵」はヒカルが持ってきたあの指輪かもしれない。 憶測にすぎないが創師としての勘が働く。 今なら「鍵」も「本」セフィーロにある。 あの中に書かれていることがをセフィーロへ帰すヒントであることは確かだろう。 「ん〜確かこの辺りに。」 書物棚の三段目を見上げると確かにある「創業伝」と「武器加工」、梯子を登り隠した本を取り出そうと手前にある武器加工の本に手を掛けた時、その二冊の前にある埃だけが、横続く板上より薄い気がした。 この棚は最高創師のみが読む本ばかりなのだ、この棚に並ぶ本に用があるものなどプレセアが死んだ今、自分以外にはいないと思って正解。 そして本の並び方が違う。最後にここに来た時、私は武器加工の本を左側に、創業伝を右側に置いたはず。 でも今、自分の右手が手に欠けている本は武器加工。 「まさか…!」 かすかによぎった嫌な予感、急いで引き抜いた二冊の本の後ろにあるはずの目的の本はその姿を消していた。 「う、嘘でしょう。何で一体だれが!?」 叫ばれた問いに答える声はない。 荒げた声はとても虚しく反響を重ねながら薄暗い部屋に響き渡った。