伝説
伝説之十八
「、ツミレ草とマジキ草を混ぜると何が出来る?」
長い白いひげ、真っ白な髪、真っ白な白衣を着たおじいさんがある日女の子と仔馬を拾いました。
1人と1匹はおじいさんの住む森の中で寄り添い死を待っていました。
そこを偶然通りかかったおじいさんが、保護したのです。
行き場の無い少女を気の毒に思ったおじいさんは、女の子を引き取り薬草の知識を授けました。
「カラカラの粉。貧血に効く。」
女の子はとても賢く、教えられたことはすぐに覚えていきました。おじいさんは町ではとても気難しい人、と有名で名医の彼を喜んで訪れる人は多くありませんでした。
患者さんが来ても経った数分で帰ってしまいます。魔法での治療は時間がかからないのです。そしてその患者さんは名医であるおじいさんのもとに通うことはありません。
一回の治療で全てが治ってしまうからです。
そんなおじいさんの姿を見て少女とココンと名づけられた馬は育っていきました。
青空がとても綺麗なある日。おじいさんは女の子の部屋を掃除しようと彼女の机を雑巾で磨いていました。
その時、机の上に置かれた雑記帳が視界に入りました。
よく勉強しているな、関心関心と何気なく開いたその雑記帳の中には、高度薬学の計算式がずっしり敷き詰められていたのです。
それはおじいさんですら習得に一生を費やしたほどに高度なものです。
普通の子供が理解できるわけがありません。
まるで弾かれたように雑記帳を閉じたおじいさんは嫌な汗に襲われていました。
そしてゆっくり、窓へ目を向け外で馬と遊ぶ女の子を見つめました。
「・・・まさか。」
女の子の部屋を飛び出し書斎の隠し金庫を開けたおじいさんが取り出した本はバカラといいました。
おじいさんは右腕につけていた腕輪を外し、バカラの表紙の溝にそれをはめ込みました。
するとバカラがひとりでにページを開いていきます。おじいさんはあるページを目で追っていきます。
そこに書かれていたのは伝説の生き物と呼ばれるリバティの記述でした。
セフィーロに一匹だけ存在する一角獣は、歌法伝来師が誕生するたびに生まれ変わる。
自分の一角獣に出会えない歌法伝来師は伝説の主役にはならない。
天からの預かり物、そう呼ぶに相応しい薬の知力と魔法習得の素質を持つ者はリバティに出会う。
それが伝説を遂行するヴァルの誕生。
歌法伝来師に代々受け継がれる腕輪とバカラはリバティのもの。
それを真の歌法伝来師とリバティが受け取ったとき、
それが伝説の始まり。
「・・・。」
ふらふらと部屋を出て、いまだ外で馬と戯れる女の子をおじいさんは呼びました。
その声はいつもの元気さに満ちていませんでした。驚いた女の子は駆け寄り、大丈夫、どうしたの、とおじいさんに声をかけています。
瞬間、少女を抱きしめたおじいさんは彼女の小さな肩で声を殺して泣いていました。
足を着いた地面が、雨の粒で次第に濡れていきました。
そんな2人に鼻を寄せて懐く馬、この2人と1匹の幸せな時間はもう長く残されていなかったのです。
