伝説
伝説
伝説之十七
誰もが息を呑んだ、その動物の容姿に恐怖心を催さずにいられない。
金色の角、白というより銀がかかった胴体、そして恐ろしいほどに真っ赤な瞳の動物が一歩一歩近づいてくる。体が自然と後ずさりをしようとする、こんなの初めてだ。
「セレスを初めて見た時とは全く違う。」
「わたくしも、ウィンダムからは受けたことの無い恐怖が・・・。」
「うん、レイアースとも違う、なんていうか雰囲気がすごく怖い。」
真っ赤な目が近づいてくる程に解くなる冷や汗、背筋は悪寒に襲われる。真っ黒な水の上に立つ一角獣は鋭い目をどうやらクレフに向けているらしい。
一歩一歩水面を薄く揺らしながら近づいてきた動物は10メートルほど岸辺から離れたところで停止し、威嚇するように大きく前足を上げ、黒い水面を揺らした。
『何のようだ、人間よ。』
金色の角を突きつけるかのようにクレフに向ける、その角には先ほどクレフが湖に投げ入れた腕輪がかかっていた。
「リバティ、お前に聞きたいことがある。」
一角獣を睨みつけるクレフ、彼を睨むリバティ。
リバティのその視線はゆっくり彼から離され、背後にいる3人の少女に向けられた。
『ほう、魔法騎士も連れて来たか。久しぶりだなレイアース、セレス、そしてウィンダム。』
「え?」
自分達を見る赤い瞳が呼んだマシンの名前。その声に反応した防具や剣が淡く光り始めている。
まるであの伝説の時のように。ぱぁっと光が大きくなり眩しさに思わず目をつぶった、再び目を開ければ全く想像すらしなかった光景が今目の前にある。
自分達の背後には蒼い龍、碧の翼を持つ鳳凰、そして炎を纏う獅子の姿。
何年ぶりに会えただろうか、3人は反射的にそれぞれのパートナーに飛びついた。
「セレス、久しぶりね。」
3体とも自分の主にグルグルと喉を鳴らし甘えるような素振りを見せる。高貴な彼らとて、伝説で時間を共にした主に愛着が湧かぬはずが無い。
そんな3体の様子と、恐怖から笑顔を覗かせた魔法騎士をリバティは睨みつけ、今まさに攻撃に入るのではないかと思わざるを得ない負の感情を放っている。
『見事に堕ちたな、リバティ。』
威嚇に怖気づくことなく、強い言葉を放ったのはレイアース。
『黙れ!お前達に何が分かる。』
殺気を放って荒々しく反応するリバティは、他の3体と別格だ。
「リバティ。」
まるで落ちつけ、とでも言うように静かに名前を呼ぶクレフ。それに反応したリバティは襲い掛かってきそうな感情を理性が何とか留めている状態だ。
一歩間違ったことをすれば取り返しのつかない事態になるかもしれない。
「その腕輪のことで聞きたいことがある。」
『が魔法騎士に渡したようだな。同じ国ぶに生まれるとは何と不運な。』
「やはり知っていたか。」
『あたりまえだ、腕輪は私の一部、コレが見るものは全て私にも見える。』
「ならば話が早いな。簡潔に聞く、をセフィーロに戻す手段はないか?」
瞬間、一角獣は再び前足を上げ津波のような波を発生させた。人間達を風の防壁で護るウィンダムは思う、リバティは本当に変わってしまったと。
『おまえが聞くのか導師クレフよ!!!!!をセフィーロへ還さないようバカラを私の元へ持ってきた張本人がっ!!』
「ッ!違うわ!!!!それはクレフじゃない!!」
前に飛び出し、リバティと話そうとする海をセレスが黒い水から彼女を護るように包んだ。
『・・・小娘、なぜこの男の仕業ではないと信じられる。』
「クレフは、クレフはそんなことをする人じゃないわ!クレフの事、何も知らないくせに変なこといわないで!」
「ウミ。」
それ以上言うな、と合図するかのように杖を地面に突き刺したクレフは俯き、足元ばかりを見ている。
様子がおかしい導師にランティスは背後から目を細めた。
まるでがいなくなった日のあの彼の様に、生気が薄れていくのを感じる。
「ク、クレフ?」
海が声をかけた刹那、薄紫の瞳から涙が流れた。
「本当か、リバティ。」
『・・・。』
無い返事。ソレを肯定ととるべきか、否定ととるべきかは聞いた本人が一番良く分かっている。
「あの本を持ってきたのは、本当に私なのか。」
2粒目の涙で、リバティを見る視界が歪む。
重力に身を任せて地面に崩れたクレフに驚き駆け寄る魔法騎士と護衛たちを見るリバティ。
『おまえたちに分かるか。愛する者に疎われ、裏切られたと私の感情が。』
リバティが放った一言は悲しみを帯びて黒い湖に堕ちていく。
刹那、そこにいた全員を湖の中心から湧き上がった淡い光が包み込んだ。
赤い目から、涙がナガレテイタ。
