伝説




伝説之十一






「・・・ッ!!」 朝食を済ませ、登校前にメールボックスをチェックし絶句した風は衝動的に震える手で携帯電話に手を伸ばした。 親友2人のメールアドレスを選択して送信、相手の二人もメールの内容に驚くはずだ。 あのポスターを掲載して2週間、やはり無理だったかと諦めかけていた矢先に来た1通のメール。 ポスターに直接メールアドレスを掲載した為、からかいのメールは何百と来ていたがここまで具体的な内容で来たメールは初めてだ。 鳳凰時風様 初めまして。突然ごめんなさい、導師の刻印のあるポスターを拝見しました。 お話したいことがあります。明日、お時間があったら品川のカフェセントラで会いませんか。 お返事お待ちしています。 約束を承諾するメールを返信すると、すぐに携帯が鳴った。ディスプレイには龍崎海という文字が点滅している。 「もしもし、おはようございます海さん。」 「おはよう、風。ビックリしたわ!本当に本人からなの?」 「はい、間違いないと思います。明日、品川で会って頂けるそうです。ご都合はつきますか?」 もちろんよ!と元気な声を聞いて、一息をついた。話をしたいのは私達の方なのに、さんが話したい内容によっては海の笑顔も消えるかもしれない、と風は勘をくぐらせる。 何にしても明日、本人に会えることを心待ちにしない理由はない。 立ち上がり、学校へ向かう中、導師クレフが見せたあの悲しそうな顔だけが脳裏を横切った。 「緊張・・・するわね。」 「本当だね。」 3人で4人掛けの席に座り、約束の人物を待つ3人。特に海と光はソワソワしている様子を隠せない。 運ばれてきた紅茶に口をつけて風はリラックスしましょう、と笑った。 リンリン、と入り口のドアを揺らした人間は一度店内を見わたして左奥に座る3人の少女達に目を細めた。 そのまま迷うことなく、その席に進んでいく。あの日東京タワーで見た3人に間違いがないことを確認して、声をかけようと光の肩に手を伸ばす。 「鳳凰時風さん、獅堂光さん、龍崎海さんで間違いないかしら。」 高過ぎず、低すぎない声に反応した3人が振り返った。 芯はあるのに消えてしまいそうなそんな独特の声、に光は悪寒さえ催した。 「・・・さん?」 「ええ。」 恐る恐る言葉を発した光に向かい笑う笑顔。 クレフの書斎にあった写真と同じ柔らかい雰囲気、顔は写真のものでないが桜色の瞳は間違いなく同じそれ。 初めまして、と風から自己紹介をした。その光景はまるでアルバイトの集団面接のようだ。 「現在の名前はといいます。1500年前、セフィーロでと呼ばれていました。」 「1500年...ですか。」 「さん!!!クレフが、みんながさんに会いたがってるんだ!」 「そうなの、だから私達あなたを探して連れ帰るって約束したわ。一緒に帰る方法を探しましょう?」 迷うことなく本題を切り出した光、そして海の瞳を見入って強い意志だ、と感心した。 さすが魔法騎士として召還された者達だけある。そんな彼女達の輝く瞳を前に、フルフルと首を振って目を伏せた。 強い意志が伝わってくるからこそ言い出しにくいが、これは伝えなくてはいけないことだ。 「ごめんなさい、あなた達を巻き込んでしまったわね。」 私の昔話を聞いてくれますか? この子達は知る権利があるから、閉じ込めてきたことを隠し続けることは卑怯だと心が呟いた。