伝説




伝説之






2週間前、東京駅告知板と東京タワー告知板にある張り紙がなされた。 異国の文字に、何が書いてあるのだろうと止まる人は少なく、まして内容を理解できたものなどいない。 気付いていた。 どこかで見たことのある文字だと、まさかそんなはずはない、そう思いたかった。 今日も駅の地下通路を自宅に向かって歩く。カツカツと自分のハイヒールがトンネル内で悲鳴を上げる。 時刻は午前2時、こんな時間にこの通路を歩く人間は私くらいだろう。 ずっと見ない振りをしていたポスターの前で足を止め、バックを握った。 ゆっくり、ゆっくり顔を上げて、懐かしすぎる文字と筆跡に目を細める。 セフィーロ ヴァルに告ぐ セフィーロ、今はもう帰ることもできない故郷。 ヴァル・・・。 そう呼ばれていたのだ、私はあの国で。 この文面を読まれ次第下記の人物に連絡されたし。 鳳凰時風 xxxxxxxx セフィーロ グル 鳳凰時風、あの日東京タワーで腕輪を渡したときに居合わせた少女の1人か。 私という存在をこの国で殺そうと決意したのに、だからリスクをおかしてまで腕輪を渡しに行ったというのに。 魔法騎士が私を探している理由が見つからない。 でも彼女達を巻き込んだことを謝らなければ。 バックの中から携帯電話を取り出して、連絡先に書かれていたメールアドレスを控えた。 外で降る雨がトンネル内に冷気を注ぎ込む。ざぁ、っと大降りになった雨が跳ね返る地面に一歩、一歩足を進めた。 濡れるのは気にならなかった。それよりも雨の悲しい音に耳を塞いだ。 「グル・・・。」 誰にも聴こえない呟きは雨の地面に落ちていく。