伝説
伝説之十
2週間前、東京駅告知板と東京タワー告知板にある張り紙がなされた。
異国の文字に、何が書いてあるのだろうと止まる人は少なく、まして内容を理解できたものなどいない。
気付いていた。
どこかで見たことのある文字だと、まさかそんなはずはない、そう思いたかった。
今日も駅の地下通路を自宅に向かって歩く。カツカツと自分のハイヒールがトンネル内で悲鳴を上げる。
時刻は午前2時、こんな時間にこの通路を歩く人間は私くらいだろう。
ずっと見ない振りをしていたポスターの前で足を止め、バックを握った。
ゆっくり、ゆっくり顔を上げて、懐かしすぎる文字と筆跡に目を細める。
セフィーロ ヴァルに告ぐ
セフィーロ、今はもう帰ることもできない故郷。
ヴァル・・・。
そう呼ばれていたのだ、私はあの国で。
この文面を読まれ次第下記の人物に連絡されたし。
鳳凰時風 xxxxxxxx
セフィーロ グル
鳳凰時風、あの日東京タワーで腕輪を渡したときに居合わせた少女の1人か。
私という存在をこの国で殺そうと決意したのに、だからリスクをおかしてまで腕輪を渡しに行ったというのに。
魔法騎士が私を探している理由が見つからない。
でも彼女達を巻き込んだことを謝らなければ。
バックの中から携帯電話を取り出して、連絡先に書かれていたメールアドレスを控えた。
外で降る雨がトンネル内に冷気を注ぎ込む。ざぁ、っと大降りになった雨が跳ね返る地面に一歩、一歩足を進めた。
濡れるのは気にならなかった。それよりも雨の悲しい音に耳を塞いだ。
「グル・・・。」
誰にも聴こえない呟きは雨の地面に落ちていく。
