「は仕事で来れないとオリヴィアさんから連絡がありました。」
快晴の空の下、ベランダで囲うテーブルに空席が一つ。
レインズワース家恒例のお茶会にが来ると聞いていた俺は彼女に会えるのを楽しみにしていた。姿が見えないからシャロンちゃんに尋ねると残念そうに首を振られた。
「そっかぁ、忙しいんだね。」
「ええ。ブレイクの10倍は忙しい方ですわ。」
ケーキを頬張る道化師にアリスとギルが呆れたような眼差しを向けると「言っておきますけど、私のせいじゃなくてあなたがたのせいですよ。」そんな答えが返ってきた。
「私達が自由に動けるように彼女が内部の仕事を引き受けているのです。でなければはこうやって次の計画を立てることもできませんから。」
「そっか・・・。知らないところでに沢山助けられてるんだね。」
『頼れるだけ頼って、利用するだけ利用してね。』
別れ際、彼女がそう言ったのを思い出す。ありがとうと言いたくても、こうやって陰で助けられてることを知らなければお礼も言えない。
人は、知らないところで支え合って生きている、それはこういう事なんだ。
「ねぇ、ブレイク。」
チョコレートケーキにフォークを指したブレイクは「改まって何です?」と片眉を上げた。
「ブレイクとってどういう関係なの?」
騒いでいたギルとアリスがピタリと言い合いを止め、問われた本人はケーキを押し込もうとしていた口をあんぐり空けて目を瞬かせる。
「恋人、だと私は思いますよ。以前にもオズ様には言いましたが。」
シャロンちゃんが言葉を発しないブレイクを差し置いて間髪告げる。彼女が上げた紅茶のカップを胡散臭そうな顔で見るブレイクがいた。
「もうこの際ブレイクの主としてばらしますが、」
「って、ちょっとお嬢様。」
「ブレイク、隠してもバレルことでしょう。彼らはもうと無関係ではないのですから。」
「それはそうですが・・・。」
「には婚約者がいましたが、その方が亡くなって2人の距離は近くなった。彼女が復帰するまでずっと付き添っていたのはレイムさんよりブレイクだったとの兄であるパール様より聞いています。実際そのころブレイクが屋敷にいた記憶は私にもありません。」
「ブレイクがさんと知り合ったきっかけは?」
「一体いつの間に私の尋問になってるんデス?」
「いいじゃん!聞かせてよ!ブレイクって隠し事多すぎ!」
ったく・・・。
言葉を濁して両腕をソファーの背に掛けた男が天井を見上げて目を閉じた。いつかはバレルからいいますけど、そう言う彼は不満そうだった。
「紹介されたんです。彼女の婚約者だった男性に。彼は当時パンドラの構成員の一人でね。私と新人研修とか一緒に色々やってたんです。」
「紹介され、そして一目惚れしてしまったんですよね。」
「ずいぶん簡単に言ってくれるね、シャロン。」
「何!?友人の女を好きになったのか!?」
シャロンちゃんの爆弾発言にギルが身を乗り出しブレイクに掴みかかった。
「ちょっとギルバート君何するんデスか!一目惚れと言っても、随分綺麗な女性だと思った程度です。異性として好きだとかね、そんな感情じゃありませんよ。」
バカバカしい。
不貞腐れるブレイクの頭をシャロンちゃんが撫でる。これじゃぁどっちが年上だか分からない。
「でも今は?この間の2人見てるとやっぱり友達以上ではあるよね?」
目を泳がせ、言葉を選んでいる様子の男に一同の視線が集まった。
「分かりませんネ。」
手を楽にソファーの上に落下させ、何もない天井をまた見つめるブレイクにシャロンちゃんの眉が下がる。
「友ということに間違いはありませんガ、それ以上関係かまでは何とも。」
つまりはブレイク自身好きか分からないってことなのだろうか、それとも彼の方は好きだけどがそうではないから恋と言えないということなのか。
「そっか・・・。難しいんだね。」
俺がブレイクの感情に同調して話題を変えようとすると、隣でアリスが立ちあがりはーはっはっは!と笑いだす。
「ピエロ、お前の失敗をこのアリス様が教えてやろう。」
目を剥いた一同に腕を胸の前で組み、ソファーテーブルに足を乗せた彼女。行儀が悪いよ、アリス。
「お前は年を取りすぎたのだ!!その年月の中で私やオズが持つような純情さ失い己の感情に素直になれない!!さらに恋という感情を認めることを恐れている!若いころならもっと大胆に行動で来ていただろうに!!」
高らかに笑うアリスに俺は風化した。そんな全て遅し、みたいな言い方しなくても・・・。
ブレイクは目をパチクリさせハッと吹きだす。それは自嘲混じりの声だった。
「食べることしか考えていないウサギさんの割にはずいぶん痛いところをついてくる。」
あれ、と思う。予想外の反応だ。アリスの言葉は、ブレイクが納得する内容だった。
聞いたかオズ!私はあのピエロをねじ伏せたぞ!そう笑うアリスに、ブレイクへ視線を送り続けるギル。シャロンちゃんは彼の隣で心配そうな目を止めない。そんな視線から逃れるようにドカッと立ち、窓に歩み寄るブレイクの背中がいつもよりも小さく感じられた。
「こう十数年も一緒にいるとね、移る情くらいあるんですよ。」
聞えないくらい小さい声を紡ぐ彼は、きっとの事を考えている。
「まぁ、お子様の君達には理解できないでしょうけど!それじゃ私はパンドラへ行きますので皆さんどうぞ良い日を。」
「ブレイク?」
扉を開け、窓から出て行こうとする彼をシャロンちゃんが呼びとめた。
「によろしく伝えて下さい。」
「・・・了解しましタ。」
そして男が出て行った窓から、秋の日差しが差し込む。今日は絶好の昼寝日和だ。
なんでこんなに忙しいんだと躍起になる部下イザベルとリンダと共に机に向かい作業を行っていた時、急に戸棚がガタンと鳴ったと思ったら神出鬼没の彼が現れた。ドアから入ってきてと毎回言うのに治らない。
「知ってました?私年を取り過ぎているらしいんです。」
いきなり現れて早々、菓子缶を取りだして作業に追われる私達の横でクッキーを食べ始めた男の顔をマジマジと見る。
「知ってるよ。38でしょ?」
「えええええ!ブレイク様ってその顔で38歳なんですか!?」
「若く見えます?嬉しいですねぇ。」
リンダが奇声をあげる。真面目に自然現象だと思っている彼女にイザベルが肘付きして「チェインのせいだよ。」と助言を入れた。
「アリス君にね、少し諭されたんデス。」
「何を?忙しいから完結に述べて。」
つれないですねぇ、とザークシーズが軽い溜息を吐いたのが聞こえた。
「秘密デス。」
「・・・何でそこまで溜めて秘密?からかいに来たなら帰りなさい。今日は本当に忙しいの。」
「まぁまぁ落ち付きたまえよ。手伝いに来たんですカラ。」
ポーンと空になった菓子缶をどこかに投げて積み重ねられた書類をテーブルから数センチ分取って客人用の席に腰かけたザークシーズに部下の2人が涙目の視線を送った。
「あのザークシーズ様が・・・仕事をしている!」
「奇跡!あしたは雪だわ。」
「あなたたち、口を動かす暇があるなら・・・。」
勢い余って折った万年筆を前に悲鳴をあげた部下が慌てて書類に食らいつき始める。そしてカツカツとペンを走らせる音だけが部屋を満たしていった。
さっき彼が何を言おうとしていたのか『秘密』と明かそうと試みても、それは検討すらつきそうになく終わるだけ。
2人を注意したとはいえ、無言で真剣に書類に目を通すザークシーズの姿を久しぶりに見たのは私も同じだ。
明日は本当に雪になるかも、なんて。
窓の外に目を向け最後の秋に溶け込んだ。