止まってしまった銀時計

『じゃぁ、バレたところで夕食にしましょうか。』
運ばれてきた肉に食らいつくアリス、ワインの入ったグラスを傾けるさん、ケーキ菓子にフォークを入れるブレイクとシャロンちゃん。そしてさっきから肩身が狭そうに縮こまっているギル。こいつが一番不自然だ。

「おいギルどうしたんだよ。」
「な、何がだ?」
「何ってなんでそんなに小さくなってるのさ。」

目元を痙攣させるギルは更に塞ぎこむ。本当に訳が分からない。頬肘を付きながら俺達の会話を聞いていたブレイクがお腹に手を当てて笑い始めた。
「ギルバート君はね、さんが恐いんですヨ。」
「ブレイク!!」
「え、恐い?」
この優しそうな女性が?そうオズが首を傾げる。

「いいじゃないですか。話したって減るものではないし。オズ君、聞きたいかい?」
「うん!聞きたい!」

「私がギルバート君を利用し始めたのはいつでしたかねー、9年前でしょうか。彼はナイトレイ家の動向を探るため良い駒でね。ついでにパンドラの業務にも部下として働いてもらっていました。でも4,5年前『俺はもうお前の下で働くなんてごめんだ!』と急に啖呵を切られまして。」

「ギル、俺お前のその気持ち良く分かるよ・・・。」
「コラコラ、オズ君。君は私の部下であることを幸せに思うべきですヨ?その時私はギルバート君に提案しました、『ならさんの部下になりますか?』ってね。」
「それはウキウキでの部下になったのでしたね、レイヴン?まるで跳ねて行くようにブレイクと私の元を去っていきました。」
「シャ、シャロン。その話はもう・・・。」
「しかし3日後に戻ってきたのです。半泣き状態で。」

ね、とシャロンちゃんに相槌を打たれ打ちひしがれたように頭をテーブルにつくギルがアリスからかわれ始めた。

という人物の下で働くということが想像を絶する過酷さだったようです。一体何をさせられたのかは聞いていませんガ・・・。」
ブレイクがさんに視線を投げる。彼女は口元に笑みを作り、再びワインのグラスを手にした。

「世間知らずのお坊ちゃんに仕事の厳しさを教えてあげたのよ。詳細は秘密ー。ブレイクからもらった可愛い部下だったのに突然消えてしまって悲しかった。ねぇ、ギルバート君?」

ビクリと肩を震わせた本人は思い出したように立ちあがり『ト、トイレ』と震えた声を残して部屋を出て行った。パタンとドアが閉まったと同時に笑いだすさんは楽しそうだ。





「それはそうと、オズ君。我々が彼女を君に紹介した理由ですが。」
「あ、うん。」
ブレイクやシャロンちゃんは俺がさんとすでに面識を持っていたことを知らなかった。なのに偶然にもこの女性を俺に紹介したいと言いだした。

「万が一、何らかの理由で君が我々に頼れない状態にある場合。もしくは頼りたくない場合は彼女のところに行きなさい。君が我々を信用する程度には、頼れる人材です。」

これから先、ブレイク達に何かが起こったら。

「先のことなんて分かりませんから今の内に紹介しておきたかったんですよ。」








さんとブレイクって、パンドラで偉い人なの?」
「いえ、とんでもない。」
この女性は、笑みを消さない。
「私達はただの平構成員よ。」

「でも、ブレイクって色々やりたい放題してるよね。それって地位があるからなんじゃ・・・。」

「確かに、もブレイクも我々公爵家と所縁のある人間ですからパンドラでもある程度の行為は寛容されています。ですが、彼らの行動を本当の平構成員が行使したならすぐに咎められ除名となるでしょう。この2人が好き勝手に行動できるのは、彼らが契約しているチェインにあるのです。ブレイクのマッドハッター、そしてのフラメルは二体とも同じ属性にあり、普通のチェインには脅威的な存在なのです。」

「チェインを殺すためのチェインってやつデス。」
「チャインを・・・殺す?」
「そのうち分かりますヨ。」

「その能力故、パンドラはこの2人を敵に回せないのです。そしてオズ様、あなたにはこの両人がついている。これが我々があなたに与えられる武器の一つです。」

シャロンちゃんは自信のある表情を見せ、頷いた。

「あ、うん。ありがとう。」
どうにも実感が湧かないけれど。



「ってアリス!!!」

大量の鶏肉が乗っていた大皿を完食したアリスが両手をテーブルについて、急に身を乗り出した。バンと叩かれたテーブルの音に驚いた一同が彼女に視線を向けた。
フンフンと鼻で空気を嗅ぐアリスがさんの周りにある空気を嗅いだと思ったら、今度はドカンと椅子に座り直した。

と言ったな?」
「はい。」
「さっきから思っていたがお前、このピエロと同じ匂いがする。」
「・・・は?」

アリスの発言に目を点にさせたさんが顔を顰めた。

「ブレイクとの雰囲気が似ている、ということですかアリスさん?」

「違う!匂いだ。甘い匂いがする。」
「ああ、それ俺も気づいたよ。だから本当のさんが従者の人だって分かったんだ。レインズワース家の従者と家の従者に接点があるなんてあまり考えらないし。同じ匂いがするなんておかしいよね。」

え、と目を開き俺とアリスを見る視線が一つ増えた。シャロンちゃんの横に座っているブレイクの視線だ。シャロンちゃんはブレイクとさんを交互に見て、顔を赤らめた。

「・・・なんとまぁ、するどいこと。」
呆れたように俺を見る男に、

「私もケーキ好きですから、その匂いかな?」
口元を痙攣させ、どうにか誤魔化そうとする女。




「あら、。あなた甘い物は苦手でしたわよね?」
何かを企んだように笑い、嬉しそうにステレアさんの顔を覗きこむシャロンちゃん。彼女は完全にさんをからかって遊んでいる。



「なーんて。本当はシャロンちゃんからブレイクの恋人が公爵家の人間だって話きいてただけなんだけど。あはは。」
「あらオズ様。それは内緒だと言ったでしょう?それはそうとアリスさん、その薫は移り香というものですわ。」

悪びれもなく甘い想像を口にするレインズワースのお嬢様を前に、のお嬢様が手を額に当て、頭を抱えた。