オーロラオーラ奏でよ賛美歌

全身に一瞬で鳥肌が立った。 口元に釣りあがった笑みを浮かべる不敵なオッドアイ。

「そう、分かった・・・。じゃぁね。」
後は任せる、そう言うようにイルミは私のオッドアイに目を細めてやがて闇の中に消えた。
私はまだその女から目が離せない。 イルミが帰ったのを見た女は自分の位置にもどりクロロとじゃれ合う素振りを見せる。 そしてキスをねだるその体を彼の腕が包んだ。本当に優しそうな仕草で。

私の中で何かが壊れた。








あの顔を私が知らないわけがない。
驚かないわけないじゃない。
毎朝、毎晩、鏡に映す自分の顔が目の前にいるのだから。

あの女が具現化された念ではないとして、この顔と瞳を持つ人物を私は自分以外に1人しか知らない。 最もその人物は10年以上前に死んだと思っていたのだが。


何が起こっているのか、考察に考察をめぐらせていれば叫ぶフェイタンの声にオーラを感じ取った。

「団長、私こいつの力見るね!!!!」
同時に頭上から放たれた攻撃をかわしながら、立っていたドア付近よりだいぶ中に誘導されていく。 相変わらず他人嫌いだな、とフェイタンの攻撃を疎く思う。


クロロ…。

大好きだった人物に横目を細る。 当の本人はフェイタンを止めるでもなくあの『』という女にキスをしながら目だけを私たちに向けている。 イルミとちがって喜怒哀楽があるだけ人間らしい深い黒い瞳、あの目に見つめられたら逸らせない、逆らえない。 私が大好きだった目だ。私はあの瞳が時として見せる優しさを身を持って知ってる。

一度、彼と目が重なったが、クロロは何も見なかったかのようにその目を閉じて女とのキスに集中し始めた。

正直、殺されるよりもイタいよ・・・。

こういうのを嫉妬っていうのかな。

嫉妬女は犯罪でも何でもできると朝のニュースコラムで特集になっていたときのことを思い出した。 そんな自制心のない、そう思っていたけれど確かに今なら関係ない人間でもウサ晴らしに殺せる気がする。


フェイタンは相変わらず攻撃の手を緩めない。 12本のナイフを一度に投げられそのうちの一本が私の左側スレスレを通過すると同時に、巻いていた民族印象を巻き込んで地面に落下した。 私の体も避けるのにバランスを崩して地面に雪崩れ込んだ。

その瞬間カラーコンタクトが外れるような感覚があったけれど、もうそんなことどうでもいい。 カランカラン・・・とナイフの乾いた音が響きわたった。






12本の刃が迫っていたとき、私にあった選択肢は2つ。 転倒覚悟の上で体制をくずしてギリギリ避けるか、フェイタンに攻撃を仕掛けるか。

「お前、ナメてるか?避けるだけね、なぜ攻撃しない!?」
目に掛かる髪の向こうで、フェイタンがこちらにとてもキツイ視線を送っている。

出来るわけないじゃない、『友達』に攻撃だなんて・・・。
たとえ私の姿が晒されたところで、彼らはもう『』を手にしているのだから私に用はない。

それがたとえどんな結果に転んでも。





ゆっくりと目を開き立つ体制を整えて、蜘蛛の前で髪をかき上げた。
私の体つき、髪、そしてオッドアイの容姿を見て今度絶句するのはあの女の方だ。 どうやってクモに取り入ったのか、なぜ「」と私の名前を使うようになったのか経緯は知らないけど、あの女は私が誰か気づくはず。


意を決してゆっくり目を開いた。

視点はクロロ、あなたに。

懐かしすぎるその黒曜石のような瞳に、少しの間でいいから私だけを映したかった。







四方八方からも旅団員の視線を痛いくらい感じる。

「おい、この女そっくりじゃねーか!!」
ウボーか・・・相変わらず声大きいなぁ。 そっくりなんて当たり前でしょ、違うのはブルーレースの色合いが私の方が少し薄いくらい。 顔は生き写し、体格もそして声までもほぼ同じものを携えて生まれてきたのだから。

視線を合わせれば、これでもかという位目を見開いた双子の妹

「レア・」が泣きそうな顔をしてクロロにしがみ付いていた。