「ん、ふっ・・・・。」
攻めれば攻めるほど妖艶を増す声におぼれ尽きることを知らない。
を取り戻して2年、空白の時間を埋めるには短すぎるが廃墟には当時のメンバーがそろった懐かしさが戻っている。
キスで唇を塞ぎ、攻防を繰り返すのがの体の癖。ん・・・と足を引きつらせ甘い声を上げた彼女に「愛してる。」と呟いた。
の念能力はあのころと比べてもあまり変わっていなかった。
べつに強くなっていることを望んでいたわけではないからそれはそれでいい、とあの時慰めてやれなかった分だけ伝えた。
まるでがあの頃のまま帰ってきたようで俺としては嬉しかったのかもしれない。
「ねぇ、クロロ今日は何を読んでいるの?」
シャワーを浴び髪にタオルを当てた彼女が後ろから手を回して覗き込んでくる。
「バイブル。」
が昔聖書を読んでいたことは今でも脳裏から離れない。
そんなもの捨てろと忠告して彼女が本気でキレたときは手のつけられない状態だった。もう二度とあんな喧嘩はごめんだ。
聖書なんてこの俺が好んで読むわけがない、彼女の思考をなんとなく理解してみたいと手をつけたのだ。
「へぇ・・・めずらしい。」
面白い?と無邪気に体を絡ませてくるその存在が、どうしても愛しいらいしい。
『クロロって結構惚れるとのめりこむほうなんだよね』そんなことを一夜の関係しか築かないシャルナークに言われ「なるほど」と確認されざるを得なかった。
「別におもしろくないが興味はある。、この下りだが・・・。」
「もう、いっつも本の話ばかりなんだから!」そんな風に逃げようとする彼女を腕で引き止めた。
「私苦手なの、聖書。」
あんなに執着していたのに、と不思議に思ったが人間数年で嗜好が変わるのはよくあることだ。
そうか、と耳元で囁いてもう一度抱きなおした。
天気のいい昼下がり、私は仕事仲間と街中のカフェに入り浸った。
これはもはや習慣で1ヶ月に1回は彼とこうやって時間を共にしている。
「で、手伝ってほしい仕事ってなに?」
コーヒーに口をつけて目の前の男に目を移す。吸い込まれそうな表情を見せない瞳はとてもミステリアスだ。
「俺の得意先。一人でもできなくはないんだけど居てくれたほうがさ、万が一のために。」
「めずらしいね、イルミが誰かと共同作業だなんて。報酬は?」
「半分払うよ。3000万ジェニー。どう?ちなみに1週間後打ち合わせという顔合わせ。」
まぁまぁの金額といったところか。イルミが同行を求めるくらいだからかなり危険な仕事であることだけは間違いないのだろうけれど。
「オーケー。私の偽名は知ってるよね。」
私は普段本名を使用していない。知っているのは極僅か、ゾルディックと師匠、それにウイングぐらいだ。
「うん、依頼先にも偽名で紹介してるから安心して。」
、仕事中いっつも変装するからね。今回はどんな変装か楽しみだ、そうイルミ・ゾルディックは紅茶のカップに手をつけた。
暗殺業も引退して、世界を回ろうか。
そんなことを思っていた矢先のイルミの依頼。
べつに断る理由もない。これを引退記念にして、仕事が終わったら久しぶりに呑みに行こうと明日の顔合わせを前にイルミにメールをした。
歩きにくいカーテンを纏ったかのような服装で、イルミに指定された場所に向かった。
初対面には顔どころか体格すら見せないのは毎回のこと、今回も目だけが出るような砂漠の民族衣装をきた。
それにしても、なんでこんなところが打ち合わせ場所なのだろう、と地図を送ってきた相方に聞きたかったが現地集合なので仕方がない。
歩きにくい裾を上げながら霧のかかった道を進んだ。
そして廃墟が集合する地区へ。
湿ったコンクリートの匂い、街中より気温が低いこの見覚えのある感覚。
印がつけられた地図、これが正しいのならばこの建物か・・・。
まるで雨が降ったあとの流星街のようだとおもいながら、数人分のあからさまな殺気が感じられる廃墟ビルの目の前で足をとめた。
約束の時間まであと3分。良く言えば「時間ぴったり」。
治るかな、と思った時間ギリギリ症はついに治らなかった。
ぎぃ、と鈍い音を立てて扉を開くと待ち合わせた人物の後姿が目の前にある。
感じる殺気は6、7人分。ピリピリした感じが心地いい。
その内の一人は私の知り合い、イルミのもの。ドアを開けた私の姿を確認して依頼人が座っているらしい方向にその視線を戻した。
「クロロ、この子がバシェットだよ。」
私を偽名で紹介したイルミの声はいつもよりもトーンが若干低かった。
依頼人を確認しようと前を見据えはじめていた私の瞳は凍りついたようにその動作をやめた。
大げさに首を下げ、視線を足元に戻す。
イルミが発した名前に全身が鳥肌に襲われた。