クロロが私に幻影旅団結成の案を話しはじめたころ、私は自分の劣る念能力を恨めしくおもい始めた。
流星街という街で見つけた家族。
すごく幸せな時間というのはこのことだ。家にはクロロ、外には友達。
一人では手に入れることの出来なかった食料もみんなで協力すれば全員分の食料を手に入れることだって難しくなかった。
友達なんて両親と暮らしていたときでさえ片手で数えられるくらいしかいなかったと思う。
その友達の親もお父さんと似たような環境におかれている人ばかりで、たまに顔を見ては挨拶をする程度、それを人はソレを「友達」と呼ぶのだと思っていた。
本当の友達がどうゆうものなのか知ったのは間違いなく流星街でのことだ。みんなにあったあの日から私は聖書をあまり読まなくなった。
今でももちろん読むけれど、その頻度は昔に比べ格段に減った。
クロロとは聖書についてなんども喧嘩した。
神なんていない、聖書なんて捨てればいいと言った彼に、私が本気で反抗したあの日からクロロはもう聖書のことを何も言わなくなった。
幻影旅団。
反抗するものは殺し、ほしいものを手に入れる。その為に必要なのは念能力。
外の世界、というクロロの言葉は私の欲望を刺激した。
『一緒に行きたい!』修行にも一段と力を入れ始めたマチ、計画を練るクロロとシャル。
私は、がんばって修行した。毎日ノルマもこなしたし、ほかのみんなの何倍も自主練習をした。
なのに念はなかなか上達しなかった。
弱い人間が幻影旅団を名乗るなんて可笑しい。だって、クロロが目指しているのは強い、誰にも翻されない能力者集団なのだから。
私はただのお荷物だったんだ。
たとえ、皆の言うとおり守ってもらう立場でついていっても、いつか他のメンバーが私のせいで危ない目に遭うときが来るかもしれない。
マチが今日修行中に言ってた。
『引きずっても連れて行くよ。』
嬉しいよ、私。
みんなが大切に思ってくれてるの知ってる。
でもね、大切だからこそ傷つけたくないんだ。
だからね、今日のバイバイは本当のさよならのバイバイにする。
「バイバイ、マチ。」
ああ、また明日ね。そう告げた友人が家のドアを閉め、反対側の海の向こうで太陽が沈みかけている。
「さて、じゃぁ、そろそろ行こうかな。」
クロロにもらったバックに聖書を入れて、今までとは180度違う帰り道を歩き始めた。
クロロ、拾ってくれてありがとう。
朝起きたとき、すぐ近くにあるクロロにキスをして抱きしめて、抱き返されてだいたい1時間がなくなっていく、そんな朝が幸せで毎日夜、眠りにつくのが楽しみだった。
シャルが男は大変だって言ってたのはよく分からなかったけど、男と女が違うというのはよく分かる。
私の全てを愛したいというクロロに任せて初めてみた、あんなベットの上で男の人の弱さを見せる一瞬は女性にはないから。
いろいろあったけど、あなたの腕の中で5年間眠れてよかった。
クロロ、大好き。
流星街を出る頃にはまた涙が流れてしかたなかった。
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5年後
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「みんなおつかれ。」
シャルナークの一言でかんぱーい、と蜘蛛のあじとでは仕事後の酒盛りが始まった。
美術館を襲った仕事はいつものように上手くいったようだ。
「ねぇマチ、ずっと聞きたいことがあったんだけど。私の番号8番ってどうしてゾルディックが就くまで空席になってたの?」
チラリと団長に目を向けると、今はシャルと話をしているようだ。
「8番は・・・特別な番号だったからね。」
「どうゆうこと?」
「その内耳に入るだろうから隠すのはやめとくよ。8番はある人間のために空けておいた番号、もし3年してもその人物が戻らなかったら埋めるっていう条件で。」
それを言い出したのはほかでもないあたしだ。
弟子の帰りを待つ師匠ってのはみんなこんな心境なのだろうか。
「誰なのそのひと?っていうかいいのかな、私が8番になっちゃって。」
「シズクの知らない人よ。」
ビールを持ってパクがこっちにきた。恒例のノブナガとウボォーの喧嘩から逃げてきたのだろう。
「私達の幼馴染っていうところかしら。」
へぇ、っと新しい酒瓶に手をつけ始めたシズクにさっきまで団長と話していたシャルが気を利かせてコップを渡す。
「なになに、何の話?」
体を乗り出して話に参加しようとするシャルを横にシズクは続ける。
「いなくなちゃったの?3年って言ってたけど。」
シズクの発言にシャルも誰の話をしていたのか分かったらしく、少し苦笑にも似た笑みを見せた。
「・・・か。もう5年間会ってない。」
旅団でも見つけられないの?と不思議そうな顔をされて何を言えばいいか分からなかった。
シャルはパソコンで情報をかき集めたし、の両親についても過去の情報を調べた。
でもこれという情報はみつからなかった。彼女はもう名前を変えているかもしれない、生きていくために裏社会に身を売ったかもしれない、この5年そんな憶測しかできなかった。
と一緒にこの世界に出てきていたらどんなに楽しかっただろう。
彼女がいなくなった次の日、報告を受けたほかのメンバーはあからさまにショックを受けていた。
誰がの話をするでもないけれど、喪失感が冷たいアジトの空気をさらに冷たくしていた。
「シズク、この話は団長に内緒よ。」
パクが人差し指を口に当ててみせる。
「じゃないと団長、また泣いちゃうわ。」
団長が泣くなんて誰が想像できる?
それほどまでに蜘蛛に強い影響力を持つ一般人。
結構危ない存在だな、とシズクは心で呟いた。