オーロラオーラ奏でよ賛美歌

退院した次の月からまたイルミとカフェで時間を共にする習慣が復活した。 私もイルミ注文するものは相変わらず、例の出来事はまるで存在しなかったかのように話題に出すこともなく。 そんなカフェでの逢瀬が退院後4回目を向かえて、「やらなきゃいけないことリスト」に最後に書き足したことを実行に移すべく彼に旅団の連絡先を尋ねた。



「・・・決めたんだ。逢いに行くって。」
アールグレイが入ったカップをテーブルに戻してイルミは小さく溜息を吐く。

「うん。でも事務処理みたいなものだから。」
結局連絡しなかったんだ、クロロの奴。


に連絡先を教えるべきなのか分からない。
あの一件があってからも旅団との仕事はあるからもちろん今彼らが何処にいるのかも知ってる。 いつか聞かれるとは思っていたけど

教えるべきなのか・・・。
またこの前のようになる可能性がゼロではないのに。

またが泣くことになるかもしれないのに。


しばらく俯いていたイルミが渡してくれたのは番地が書かれていない住所のメモ。

「その近くまでいったら旅団員のオーラで場所は特定できる。」
「ありがとう。」
渡された住所を確認した。結構遠いけど飛行船で5時間もあれば乗り継ぎなしでいける所だ。< そして住所の下に走り書きが一行あるのに気がついた。

"死にそうになったら必ず連絡すること"

「・・・ありがとうイルミ。」
「いや、べつに。」

その後会話は二度と旅団に戻らなかった。




















次の日曜日、銀行に寄ってからイルミに渡された住所を目指すべく飛行場に向かった。 機内に設置されたカフェの窓際に座り、開かれた聖書と過ぎ行く雲に目を交互に移す。

あれから半年経つ。

退院してからの私といえば本当にゆっくりした時間を一人満喫するに尽きた。 イルミやルノーに会いに行く以外は呼んでもいないヒソカが稀に遊びに来るくらい。 ずっと一人家に篭って聖書を読んだり、ビーチに出たり、礼拝に行ったり、気分転換に料理を習ったりした。 おかげで体がなまって気を引き締めた1ヶ月前。何だかんだ裏職業はやっぱり自分に合っているらしく、復帰して最近はポツポツ依頼をこなしている。


こんな人殺し人間が天国にいけるほど主は寛大じゃない。 たとえ信じている主に見捨てられようと、地獄に落ちることが分かっていようと私は死ぬまで聖書を読み続けるだろう。 あの日、流星街で私を救ってくれたのはこの聖書だったのだから。



そしてあともう一人・・・。


「当機はまもなく−。」

聖書をたたんでカバンに入れた。現地は眩しいほど太陽が輝いていた。














前回同様、彼らがアジトにする建物の条件は「廃墟」のようだ。 ホテル一つでも乗っ取ってそこをアジトにしたほうがカッコいいのに。

はぁ、溜息を一息。
来るには来たが、これからどんな状況が自分を待ち受けているのかという不安がないと言えばうそになる。

自分を幾分落ち着かせるための溜息を満喫したところで今にも壊れそうな鉄の扉を開けた。

迎えてくれたのは懐かしい顔だった。




「・・・か。」
「久しぶりだね、フランクリン。」
細められた目は優しい、流星街にいた頃と変わらないままだ。いつもノブナガやフィンクスが喧嘩を始めると仲裁に入るのはフランクリン。 私が聖書についてクロロと大喧嘩したとき逃げた先もフランクリンのところだった。

「他のメンバーは?」
「団長とシャルナークは調査中。他のやつらは収集かかってるからその内くるんじゃねえか。」
それまでどうしようか。街に出てまってるのが得策かな。

「おい、待つなら茶でも付き合えよ。」
腰を上げた大きなフランクリンは台所はこっちだ、と手でを合図する。

「団長のコーヒーもあるな。あとは緑茶か紅茶か。」
突然の訪問者にあまりにもオープンなフランクリン。

来ないのか?と聞かれ苦笑して昔のように彼の後を駆けてついていった。







ここの台所は屋外に設置された小屋らしい。 衛生面が疑いたくなるような仕様にまた流星街を思い出す。 あの汚い集合家事場でみんなでご飯を作った時のこと、フォークを交換しながら使ったこと。

、なんで戻ってきたんだ?」
「やっぱりだめだったかな。」
ケトルのなかでボコボコ沸く水を見ながら私が発した言葉にフランクリンが一瞬固まった。

「そういう意味じゃねぇよ。クロロに会いに来たのか?」

「・・・うん、まぁ。会計処理にきた。」
「なんだそれ。」
お茶が入ったところで台所の隅にあるテーブルでのお茶会。緑茶に砂糖を入れてのむ私を昔のように笑い飛ばしてくれるこの人はやっぱり変わってない。

「お前ずっと絶して疲れないのか。」
「癖、みたいな。私のオーラ感じたらみんなびっくりするでしょ。」
「気づかなくてお前がいるのを知る方が驚くと思うけどな。」
「あはは、確かにそうかも。」

フランクリンは目を細めてほっとした様に息を漏らした。

「久しぶりにみたな。その顔。」

「は?」

「笑った顔だよ。」

フランクリンもまた笑ってくれた。メンバーが集まるまでの時間がとても短く感じたのは彼のおかげだ。 いろんな話をした。私がどうこの6年を過ごしてきたか、念を学んで強くなったことや暗殺家業をしてること。 特に言葉を返すでもないけど、頷いて聞いてくれた。




「そろそろ行くか。」

1時間ほどからポツポツ感じ始めた人間の気配。それが今では10人分くらいになった。

「そうだね…。会計処理に。」
もう皆が来ていることを気付かないふりをしていたんだ。聞かれなかったらずっとこのまま座ったままで平和な会話をしていれただろうから。

大元の建物に入る頃、真っ赤な夕日が沈みかけていた。





クロロ。

ごめん、わたし来ちゃった・・・。