ここで目覚めて16日目の朝食は、ありったけのチーズと蜂蜜をのせたバゲットとコーヒー。
その絶妙な塩分と糖分のコンビネーションに舌鼓をうって、昨日準備した荷物を抱えて家のドアを開けた。
「たまにはビスケに顔見せてあげなさいね。」
ルノーがタバコに火をつけながら送ってくれた。彼女は知り合い一のヘビースモーカー、泊まらせてもらう代わりに毎日1カートンを宿代としてプレゼントした。
おかげで2週間一緒にいて吸った副流煙の量はハンパない。
ザバン市を出る頃には太陽がとても高く、春のような風が吹いていた。
自宅がある島まで帰る船の中、カナシャを呼んでイルミとヒソカに「無事に退院」とメッセージを送った。
船のデッキに寄りかかり、「帰ってやらなきゃいけないことリスト」を暇つぶしに作った。
洗濯、部屋の掃除、冷蔵庫の中身を空っぽにする、新しい食材の調達。
特に冷蔵庫の中のものは腐っていること必至だから1番にやろう。
潮風に短くなった髪がなびく。
手すりに体を預けて高い高い空にカモメが行くのをみた。
一度死を体験したものだけが知っている生活の穏やかさというのはこの感情のことかもしれない。
2週間前は生きていること自体に不満で、忘れられない存在を忘れることだけを考えていたのに、先のことなんて見ようとできなかったのに、今はどうだろう。
暗殺家業はやめて、しばらく家でゆっくりしようと思う。
ほら、ちゃんと未来のプランが立てられてる。
ゆっくりしたあとまた生活が変わるかもしれないけど、それはその時考えればいい。
堕落した感情から今日までの回復は、そりゃあルノーが気分高揚剤でも食事に混ぜたんじゃないかと思わずにいられないほどだった。
でも彼女が薬を使わないのは良く知っている。
多分、このアイオライトのおかげなのだと思う。
辛さに負けそうになったとき、悲しさに押しつぶされそうになった時いつも私を助けれくれた小さな石。
クロロの笑顔とみんなを思い出すたびに、自分の存在を認められている、いつか強くなってみんなに会いに行きたいって目標を与えてくれた。
ルノーの家でこの前の出来事のことを向き合っていろんな方向から考えることができた。
アイオライトをみれば、心に響く質問
「私はこれからどうしたいの?」
クロロ…
ごめんなさい。
受け入れてくれなくてもいい。
ただ伝えたい。
私がクロロを忘れたことなんてなかったこと。
ずっと、心の中で支えてくれてたこと。
大丈夫だよ。
うん。
大丈夫だから笑って。
うん。
これからどうする?
カバンからペンを取り出して、やらなきゃいけないことリストに書き足しをした。