風が鼻をかすめる感覚に頬が一瞬ピクリと痙攣して私は現世に呼び戻された。
軽く開けられた窓のすぐそばに置かれたベット、レースカーテンから入り込む木漏れ日があったかい。
もうここが何処なのか、なぜ私は此処にいるのか、そんなことはもうどうでもよかった。
どれだけ眠っていたのか分からないけれど、その間ずっと夢を見ていた。
あれは私とクロロが一緒に住んでいた流星街の寝床で、クロロがレアをベットで抱いているシーン。
クロロはレアをと呼んで愛していた。
彼らには私の姿が見えていない。
私は涙を流してクロロの名前を呼んでいた。彼らの行為を目に写しながら・・・
さっきまで夢で見ていた一部は夢ではないのだ。少なくともクロロがレアを抱いたのは事実だろうし。
体を起こして、自分の手をみれば旅団に会いに行く前の状況となんら変わりないほどに回復している。
もしかして現実だと思ってる方が夢だったのかな、とすら思えてくる。
すべて夢だったらいいのに・・・クロロやみんなと再会したことも、あの女が生きていたことも。
あの時イルミが引きちぎったネックレスの鎖は新しいものに代えられて「宝物と呼んでいた石」が通されている。
首にかけられていたそれをはずしてベットの上に置いた。
自分からはずしたことなどないというのに、夢を見たせいか今はコレをどうしても見たくない。
どす黒い感情を持つ自分に吐き気がする。
ベットからやや離れたサイドテーブルに水を入れたデカンタがあるのを見て求めるように無意識に足を地面につけた。
え?
暗転。
ガクッ・・・と足から力が抜け体が床に大きな音を立てて落ちた。
もしかしたら足は治ってないのかと下方に目を向けるが、曲げられた足2本、骨から皮膚まで見た目は完璧に治っている。
そして、ドドドドッ!と階段を駆け上がるような音がしたと思ったら、木でできた部屋の扉が勢い良く開けられた。
「!!また私の仕事増やす気なの!?」
金髪の化粧が濃い医者が一人、到底怒っているとは思えない微笑で私のところに近づいてきた。
「ルノー…。」
体を起こすのを手伝ってもらいベットに座らされる。
「あなた1ヶ月近く寝てたのよ。急に立ったら体が驚くでしょ!」
はい、と水を渡してもらい彼女が一番気にしているだろう核心に触れた。
付き合いは長いから彼女が人生において何を一番大事にしてるか知っている。
「ルノー、私死ぬつもりだったからイルミに全財産渡して今払える治療代ないや。」
人生全て金と財宝よ!と付き合い始めて言われた彼女の格言。
私と考えかたは違うけど、近しい知り合いとして付き合うのに彼女の性格は申し分ないほどオープンだ。
私が申し訳なく放った言葉にまるで呆れたように目を丸くして「何だそんなこと!フフフ。」と手を口元に当て笑う。
彼女はいつもエプロンに入れている貯金通帳を自慢げに見せ、ここよ!と指で示した。
そこには10月08日 5億ジェニーと記載されている。
「5億って私の給料2年分♪」
怪我してくれてありがとう、と言われたけれど「どう致しまして」とは到底言える気分じゃない。
「あの男・・・ブラックカード3枚出してきて全部持ってっていいって言ったのよ。
全部なんてもらえないって、いつの間にか私が値切る立場になってたわ。」
「あの男ってヒソカ?」
「あんた、なんでそいつの名前が一番にでるのよ。」
「イルミ?」
「残念だけど、もう一人のほうよ。」
何が残念なんだろうと思ったけど、今以上に自分の感情をややこしくされそうだったから聞かなかった。
クロロか。
「・・・私、いつ帰れる?」
久しぶりに外気に触れたオッドアイがすでに疲れてきた。
軽く目を閉じてベットに横になる。
「ちゃんと立てるようになれば明日には出て行ってもいいけど、念を使うのは最低でも2週間控えて頂戴。」
念が使えない念能力者なんて、ほかの念能力者にすれば獲物同然。
ブラックリストハンターになんて目をつけられたら捕獲されてそれこそ終わりだ。
「じゃぁあと2週間ここにいていい?」
ルノーも念能力者、一人でいるより格段に安全。
「構わないけれど、私のところより安全なところがあるんじゃない?」
あっちの方が人数も多いわよ、と笑みを持っていた瞳が少し真剣になった。
「会いに行かないの?」
幻影旅団のことを言っているのだろう。
さっきまで乾いていた瞳がまた濡れてくる。
それはブルーレースから流れ落ちてシーツに染みを作った。
「・・・さぁ、どうだろうね。」
涙に消え入りそうな声で、ひどく曖昧な返事をした。
クロロとイルミが部屋の外にいるとは知らずに。