ザ・ダイアモンドDAYS


青春学園、スポーツと理系で有名な高等学校に通い始めて早2年と半。
明日から3年最後の後期が始まる。










始業式の日の午後から授業が入るなんて、きっとこの学校の理系コースくらいだ。
青春学園の熱血教師と呼ばれる体育会系教員の7割は理系分野を担当する教師で構成されている。
従って勉強も熱血指導、熱血学習が暗黙の鉄則なのだ。
もう進学先が決まった学生にとっては無駄な知識を詰め込むだけの時間になるのだろう、
何といっても3年の後期の学習内容なんて大方、「今までの復習」で決まっているのだから。

「姉さん、下で携帯鳴ってるよ。」

「ああ、ありがとう。」

カバンに物理と数学の教科書を詰め込んでいる時、ノックして入って部屋に入ってきたのは弟の
努力した甲斐あって、この春から青春学園中等部テニス部でレギュラーに昇格、夏のインターハイを目指す15歳だ。

固定電話の隣に忘れて来た携帯の存在を思いだして、階段を下りた。
メールを受信した時の白いランプが灯るそれをチェックすると、差出人は案の定、親友のだった。


『見て見て!隠し撮り成功ッ!』

メールには添付画像が付いていて、それを開いた私は、今頃この3年2組の菊丸英二君の寝顔が遠目に撮影された画像を見て
二ヤニヤしているであろう親友の姿を思い浮かべずにはいられない。

相変わらず羨ましいほど神経が図太いというか、彼女の決して折れることのないハングリー精神はアル意味、称賛に値する。












、私と同じ理系コースの17歳、誕生日は来年の2月20日。
と初めて会話をしたのは高等部1年生の秋、色付いた桜の葉が作る陰に佇む校庭のベンチでのことだ。

一人「ミシェルの墓地」という物語を読んでいる時に、私の前を真っ赤な目をした女学生が横切った。
スカートの丈の長さから同じ1年であろうことは簡単に予想できた。

まるでどこに行くあてもないように歩いていた彼女に私は「座れば?」と空いたベンチの横席を提供した。
泣いている彼女をそのまま立たせておきたくなかったんだ。丁度2カ月前の自分を見ているようだったから。



私の顔を見るなり、目を見開いた彼女は『そうね、あなたなら分かってくれるかも。』と泣いている原因を淡々と語り始めたのだ。
彼女は「菊丸英二」というとても聞きなれた名前の学生に告白して今しがたフラれてきたのだという。

『こんなに辛いの初めて。あなたはどうだった?』
まるで「何でも知っているのよ。」と言わんばかりの質問に、本を閉じて表紙に目を落とした。
告白した経験があるのかも、彼氏がいたのかも知らない相手にこの質問はおかしい。


顔を見て、私が「あの」だと気付いたのだろう。








あれは辛かった、という言葉で表現できる気持ちなのだろうか。

梅雨が始まったばかりの小雨の日。

怒りのような、絶望のような、ただ胸が苦しくなる感情に呑まれて、校庭に足をついた。

涙で立ち上がることもできなかった私の体を支えてくれたのは、が恋した菊丸君。

支えてくれる彼の腕の中で、大泣きしすることしかできなかった。あの時の涙消費量は半端なかったはずだ。






















さんは、不二君に振られた時どうだった?』
メールの返信をしようと、ボタンを押すと、昔聞かれた、目を真っ赤にしたの質問が脳裏をかすめた。