「すごい顔ぶれだね・・・。」
「ああ。四大公爵家関係の重要人物は全員いるな。侯爵、男爵、勢ぞろいだ。王室関係者の顔もある。」
「あ!!エリオットだ!おーい、エリオットー!リーオ!!ってオスカー叔父さんあっちでもうあんなに呑んでるし。」
「旨い!!今日の料理は特に旨いぞシャロン・・・お姉様。」
「はい、アリスさん。何と言っても公爵家当主の誕生日パーティーですものシェフの腕もなるというものです。」
「お嬢様、何か飲まれますか?お持ちしますよ。」
和気藹々と公式にオープンされたパーティーが盛り上がりを見せる。主役のシェリル女公爵は挨拶に来るお偉いさんに笑顔を絶やさない。パーティーが始まり2時間、挨拶に来る人間がいなくなったところでシェリル様がシャロン様をお呼びになった。
「疲れたわぁ。誕生日会もこの歳になると楽じゃないわねぇ。」
「昔のお主はどんなに呑んでも騒いでもピンピンしておったのぉ。」
「あら、ルー君だって疲れている癖に。若いのは外見だけよ。そうそう、シャロンちゃん。これは私から可愛い孫へのプレゼント。」
「まぁ、素敵なティアラ!!おばあ様ありがとうございます。」
銀に宝石の装飾が施されたティアラを手にしたシャロンちゃんは感激のあまり涙目になっていた。
「オズ君とギル君にはこれ、アリスちゃんにはこれ。私とルー君からよ。」
「え、俺も?ありがとうございます。」
「お気遣いありがとうございます、シェリル様それにバルマ公。」
「くれるのか!!嬉しいぞ!」
俺達にプレゼントを渡した公爵の2人は満足そうに笑う。そしてバルマ公がレイムさんに目配らせをした。「承知しました。」そんな言葉を残し一度輪を離れたレイムさんを見送る一同。公爵当主の二人が微笑みあって、今度はその視線をブレイクに投げた。
「ザッ君にもプレゼントがあるのよ。」
「それも超がつくとっておきじゃ。」
「私達2人から、ね。」
「・・・なんでしょう。楽しみデス。」
急な話に首を傾げながらも愛想よく笑うブレイク。ちょうど戻ってきたレイムさんが押してきた台車に乗かっているとても大きな箱に一同の困惑の視線が注がれた。
綺麗にラッピングされたそれは一つの辺が1メートル以上ある巨大な箱。そしてバンバンッと中で何がか動く音がする。そして音に合わせ揺れる箱。
「・・・これは。」
「な、何か生き物入ってるよねこれ!!」
「恐いですわ!おばあ様これは!!?」
騒ぎだす俺達とは対照的に顔を見合わせ笑う当主二人、そして箱を押してきたレイムさんも何だか嬉しそうに微笑んでいる。
「帽子屋よ、開けるがいい。」
「あなたからの贈り物とはおそろしい限りですね。」
「なに、この間オペラハウスで痛めつけた詫びだと思えば良い。さぁ、開けよ。」
シェリル様に視線を送ったブレイクが、いまだ笑う彼女の表情を見て諦めたように箱の大きなリボンを解き始めた。
ドキドキ、何か飛び出してくるんじゃないかとレイムさんの背後に隠れる俺、ギル、アリス、そしてシャロンちゃん。これは心臓に悪い!
リボンが完全に解かれた瞬間、中で再び暴れた何かが内から箱を破壊した。
「「「「「出たぁぁぁ!!!!」」」」」
ぎゃぁぁ、と目を塞ぎレイムさんの背後一直線に並んだ俺達と全く反応がない前方。恐る恐る顔を出すと箱の中にいたのは女の人。
「なんだぁ、人間。」
「猫型のチェインが出てくるのかと・・・。」
「私もてっきり・・・。ブレイク?」
様子がおかしいブレイクに、シャロンちゃんが声を掛けるけれど返答がない。
箱の中から現れたのは、手と足を拘束されている女の人。白いドレスに、ベールを身に纏うその人はすごく綺麗だ。超がつく美人。
ペタンと座っているその女性(ヒト)は、目の前にいるブレイクに頭を上げている。顔色は最悪。表情は人生の終わり、そんな窮地の様子を見せている。
一方のブレイクはじっとその女性を見て、行動停止。
この2人の間にあるのは沈黙。
「レイム!!これ外して!」
先に声を上げてパニックになりだしたのは女性の方だった。俺達の前にいるレイムさんにお願い、と懇願する彼女からブレイクはまだ視線を外さない。
フラッとブレイクの身体が揺れた気がした。近くにあった椅子の背に手をついて、瞬きを繰り返すブレイクの前で、彼女は俯き下唇を噛みしめる。
「何の冗談です。」
か細い、ブレイクの声がオーケストラの演奏に混じり、俺達の耳に届く。
「だって・・・。」
首を傾げる俺達、2人を見守る当主達。
こんなに動揺しているブレイクを俺は初めて見た。
「は30年前に。」
「見ての通りじゃ、死んでなどおらん。」
顔面蒼白の彼女が縛られている縄に手を掛けたのはバルマ公爵。彼は淡々とした声でブレイクに声を掛けた。
「十数年前、バルマが所有する教会の中で倒れておっての。違法契約者の刻印を持つ女、パンドラで調べあげようとしたが過去の情報と引き換えに生かした。」
「違法契約者?この人が?」
ブレイクと同じだ。
「遣えていた家が全滅し、夫がいなくなり過去を変えるため契約したのじゃったな。計算したところアヴィスへ落されたのは帽子屋がアヴィスへ落ちた数年後の話。経緯は分からんが愛する者を想う気持ちがアヴィスの意志の眼鏡に叶ったようじゃ。そしてその計らいで帽子屋が今生きるこの世へ戻された。」
地面を見つめる箱の中の女性の頬にシェリル様が優しく手を置く。暖かさからか、綺麗な藍色の目から涙が一筋流れた。
「・ブレイク・レグナード。私に初めて会った時はそう挨拶してくれたわ。」
開かれた藍色の眼、そこから涙だけが流れる。声も上げず、まるで濡れた人形のように。ブレイクの表情は切なそうで、苦しそうだ。
「ブレイクって・・・。じゃぁこの女性が」
俺の発言に頷いたシェリル様が手を握りそれを震わせるシャロンちゃんに気付く。
「なぜ、なぜ今まで名乗り出なかったのです!ブレイクは、あなたを愛していて、それでずっと会いたいと思っていて・・・!」
顔を赤くし、怒るシャロンちゃんがさんに詰め寄る。それに待ったをかけた女公爵が、優しい視線をさんに戻した。
「本当はね、十数年前この子と知り合ってすぐにザッ君に会わせるつもりだったの。でもちょうどその日私の書斎の窓からシャロンちゃんの隣で笑うザッ君を見たちゃんがね、止めますって。」
「なんで・・・だってあなたはブレイクの。」
「ザッ君にシャロンちゃんと笑える今があるのなら、自分はいなくていいのだと。彼に過去を思い出して欲しくなかったのね。自分を犠牲にしても、愛する人には笑っていてほしかった、そんな気持ちに妥協したのはおばあちゃんなの。だからシャロンちゃん、怒らないであげて。」
彼女は苦しくてしかたなかったはずなのに。
「私は・・・。」
彼女が震える声を絞り出す。
「私はカレン・クラックソンです。・レグナードの名前はとっくに・・・とっくに捨ててしまった。」
「素直じゃないのぉ。シェリルの招待状も無視する勢いだからこうやって縛って蹴飛ばして無理やり連れてきたというに。どうして素直に感動の再会ができんのじゃ、このツンデレが。シェリルよ、ハリセンを貸すがよい。」
「今日だけよ?」
バシン、バシン、バッシーン!!
「バ、バルマ公容赦ない・・・。」
「おう・・・。」
「私とおばあさまには負けますわ。」
ハリセンで叩かれ、悶絶して蹲る彼女が大理石の上に横たわる。痛みに涙は引っ込み、長い髪が流れるように床についた。
「人の妻に手を出すなんてどうゆうことです?」
「こやつは我の従者、手を出す権利はある。」
黙っていたブレイクがさんの前に膝をつく。彼女の頬に手を置いてそのまま髪を解く。苦笑いの様な、切ない笑いの様な、とても表現しにくい表情。それを見上げるさんはグッと唇を噛みしめた。
「全財産つぎ込んだドレスとその指輪も本物のようだし・・・。疑う余地はなしですね。」
「全財産?」
「オズ君のようにお金持ちには理解できないと思いますが、私はただの騎士でしたから別に給料がいいわけではなくてね。大層な婚儀に出来ない代わり、形だけでもと当時全財産費やして・・・あとシンクレア家に給料数カ月分前払いしてもらって買ったんです。」
彼女の薬指の指輪に手を置きなぞったと思ったらブレイクは思いがけない行動に出た。
「ツンデレは相変わらずだな、。」
両手で彼女の頬を掴んで吊り上げるように無理やり身体を起こさせたブレイクは鬼だ。
「本当に驚かせてくれるよ。」
横に引っ張られ、ネジくりまわされる頬が、痛そう。
「私を見つけたのに黙ってるとはどういう事だ?それも十数年間。今があるから君はもういらないなんて言うとでも思った?大体昔から気の遣いすぎ、もっと信用しろって何度も言わなかったっけ?それに何、レグナードの名前は捨てた?どういうことそれ。一人で離婚した気になってる?」
いつもの口調と違うブレイクからさんに襲い掛かる怒濤の質問攻め。
「い、いひゃい。離してくだしゃい。」
感動とは違う意味で涙目になり始めたさんを見かねたレイムさんがブレイクに「それくらいにしてやれ。」と溜息をついた。
「おや失礼。口調が昔に戻ってましたカ。」
離された頬は赤い。そこを手で押さえグッと溜めこんださんが立ちあがり、おやっと首を傾げたブレイクの頬に、思い切り平手をかました。
バッシーンと音を鳴らして。
反撃だ。
「・・・ッ。」
「あなた、女性の顔に手を出すなんて一体どうゆう了見です!?痛いんですけど!!!ええ、そうですよ離婚した気になってました!だってあなたとは違う人生を歩むつもりで十数年生きてきた。それにあなたにはシェリー様とシャロン様がいて、お二人の隣であなたは幸せそうで!!!あんなに私に頭の上がらなかったくせに今や亭主関白ですか!?どうゆう変化ですソレ!」
ブレイクの胸倉に掴みかかったさんに、一同風化。
「俺、ブレイクの奥さんって青空のように綺麗で、清楚で、優しい人なのかと・・・。」
俺の目元は引きつっている。隣にいるギルと同じように。
「私なんて・・・いなくたって。」
ギュッと手を握る彼女を見て、想う。やっぱり彼女は彼女なりにブレイクに会いたい気持ちを押し込め生きてきた十数年やりきれない思いをしていたんだなって。
「・・・君のあの創造物が食べたくて堪らなかった。」
さっきさんがやっていたように殴られた頬を抑えるブレイクが今度は彼女に笑った。
「あのケーキというけれどドス甘くて、見た目も悪いあの芸術品。ちゃんと焼けるようになるまで食事はケーキだけだと君が毎日作っていたアレ。」
目を開くさんがブレイクの目をジッと見ている。少し、水の膜が張っているのは気のせいじゃない。
「毎日家事場でケーキというアレを焼いては小麦粉をブチまかして、焦がして家を焦げ臭くして。当時無理やり食べさせられたアレのせいで最近は甘い物しか食べれなくなりました。少しは上達しましたカ?」
「・・・私は今バルマ家のデザート係兼任です。」
「それは出世したこと。」
「。」
細い身体を抱き寄せて、しっかりと抱きしめて、彼女の首筋に顔を埋めるブレイクがまるで俺が知らない男のように彼女に甘える。
片手を正装のポケットに突っ込んだブレイクが取りだしたのは、さんが付けている指輪に酷似した対の指輪。それを器用に彼女の背の後ろであるべき指にはめた。
「した気になってる離婚は絶対認めませんから。」
「めでたいのう。めでたいのう。これで明日から解読作業も捗るというものよ。」
「ふふふ。週末は二人のためのお祝いね。」
二人を見た当主達はガッツポーズ。
レイムさんも優しい笑みで見守り、感動に大量の涙を流すシャロンちゃんとギル、そして「なんだか分からんがこれは旨い。」未だに肉に食らいつくアリス。
何だか凄い再会だったけど、
とりあえず。
「二人とも、末永くお幸せに!」
他人事なのに、お酒はあまり好きでもないのに。
今日はこの2人の為に呑みたいと、そう思える夜だった。
END HAPPY END