ガサガサ・・・
ガサガサ・・・
硬いプラスチックをグシャグシャに潰したような音が頭に響く。
ああ、私死んだんだっけ。
重いまぶたを開けると、木漏れ日に照らされ窓から温かい風が吹いている。
最後に見た自分の真っ赤な姿とは違い、今身につけているのは純白のローブ。
天国ではみんな白い服を着るって本当だったんだ。
ガサガサ・・・
ガサガサ・・・
「・・・シャル?」
ベットの脇にある木でできたクローゼットで何か探し物をしているような金髪の少年がいた。その後姿はよく知ってる。
ガサガサというのは彼がいじっている収納袋の音だったらしい。
「えっ!?・・・!?」
何だろう、大層驚いた顔をしている。でもなんでシャルがここにいるのかな。
ああ、そうか。天国だから時間軸とか関係ないんだ。
きっとシャルが老衰で死んだとしても私のシャル記憶は若いシャルの物しかないのだから、それが反映されるんだろう。
「シャル、死んじゃったんだ。かわいそうに。」
驚いた顔だったシャルはみるみる眉間にシワを寄せ始めた。
すると愛用の携帯を取り出してどこかに電話を掛けている。天国にも携帯電話あるんだ。
「あ・・・俺だけど目覚ましたんだ・・・。うん、そう。でもちょっと問題発生、たぶんあの時の拷問で頭イカレちゃってる。」
何話してるんだろう。
「ねぇ…。」
立ち上がりシャルのところにいこうと、足を地面についた瞬間に襲った腰の痛み。
「ああ!!!何してんの!?」
腰の痛みに体が持たず、私はベット脇にあった花瓶と一緒に音を立てて地面に落ちた。
「うう・・・痛い。これもしかして現実?」
天国まで来て痛いなんて真っ平だ。天国だと信じたくない。
私の言葉を聞いたシャルはまた少し目を見開いて、意識を電話口の人間に戻した。
「あ、団長?ううん、大丈夫。正気に戻ったみたい。」
「が寝てたのは3日間。」
シャルの話によると私はまだ生きているらしい。
「シャルが助けてくれたの?」
手に力を入れてみるけど、なかなか強く握れない。とうぶんの間念は当てにならなそうだ。
「団長がね、が落ち合う場所にいない、そのかわり血が飛び散った跡があるって連絡してきたんだ。
で、俺からの携帯にかけたんだけど繋がらなくて、埋め込んであった特装GPSで追跡したら瀕死のとあの念能力者を見つけた。」
繋がらなくて当たり前だ。
携帯は私のポケットのなかで壊れてしまっていたんだから。
GPSなんて埋め込んであったのか・・・。しらなかった。
「追跡はもちろん団長と一緒にね。男の始末は団長がしたんだけど、あんなに残酷に殺したのかなり久しぶりじゃないかな。
人の女をこんなボロボロにしておいて生きて帰れると思うな、ってメッタ刺しにしてた。あれはかなり怒ってたよ。」
クロロが怒る?
私のこと俺の女、って言ったの?
「なんか団長が団長じゃないみたい。」
その時の彼を見てみたいなーなんて不謹慎に思った。
「携帯のGPSも万が一のときにって団長から頼まれたんだ。」
「団長が・・・なんで?」
「それだけが想われてるからでしょ。」
「・・・。そうなの?」
一緒にいても本しか読まず、ご飯を食べに行っても会話も弾まず、ただ夜の行為をして、朝になって出て行く関係だったのに?
シャルよると、そこに愛という感情があったということらしい。
「それに無理して団長って呼ばなくてもいいよ。2人のとき名前で呼んでるの知ってる。」
シャルとお話してたら外から騒音が聞こえはじめた。
それはドドドドドという音でだんだん近づいてくる。
そしてバーンっ!とドアが開いたかと思ったら「「っ!!!」」とマチとパクノダが入ってきた。
「ああ、二人とも。私生きてた。」
ははは、と笑うとマチから鉄拳がとんできた。かなり痛い、私いま念でガードできないのに。
「ったく、心配しただろうが!」
「まぁマチ落ち着いて。、調子はどう?」
みんな解散したはずなのに駆けつけてくれたのか。
「ちょっと力が入らないんだけどもう大丈夫。痛いのは腰だけ・・・。」
「相変わらずすごい治癒能力だよね。」
あんなにひどかったのに、とマチが私の肌を直見してくる。
「あなたの念の一つ自己再生能力が発動したのね。いま力が入らないのもそのために使ったオーラが失われたせいかも。」
「そういえばシャル、団長は?」
マチがコーヒーを渡してくれた。
「ああ、うん。ゾルディックに呼ばれて出て行った。連絡したからそろそろくると思うけど。」
ゾルディック?
ということは、もしかしてここってククルーマウンテンの敷地内のあの小屋!?
「が怪我したこと知った長男がお怒りらしくてさ。」
あぁ・・・やっぱり。
「長男ってよくに会いにくるあの能面顔だろ?」
そんなマチ、表情はないけど能面は可哀相だよ。
「うん。拉致されたのがこの近くで…、それにここの森はオーラを高めるのに良いらしくて、の再生能力だけじゃ不安だからってクロロが連れてきたんだ。っと噂をすればオーラ近づいてくるね。しかも2人いる。」
「本当?私ぜんぜん感じないんだけど。」
まるで一般人に戻ったような気がする。
このままゾルディック家の食事食べたら毒にやられて今度こそ間違いなく死ぬな。
「あなた、仕事はしばらくお休みね。」
ポンっと肩を叩いたパクがウインクした。
誰か来た。ドアの前にいるな。これだけ近ければ今の私でも気配を感じることが出来る。
「入るよ?」
ノックが聞こえてきたかと思えばその声はクロロじゃなくて、イルミの物だった。
うッ・・・イルミが来た。入ってほしくないな。
ガチャ、っとドアが開いてスタスタ入ってきたイルミに両頬をつねられ、上にそのまま持ち上げられた。
もちろん私は宙ぶらりんの状態だ。
「いひゃいー!ひゃめてくらしゃい(痛いー!やめてください)」
「お前バカ?死んでたらどうするつもりだったの?一応、親族唯一の女の子なんだからさ体も顔も頭も大切にしておきなよ。伯母さん電話で泣いてたよ。」
出たゾルディック家一の過保護、イルミ。
私の2つ上で子供のときはプールで裸の付き合いをした従兄弟。
「いひゃーい!!(痛―い!)」
ブンブン揺すられもはや頬の肉がちぎれる寸前だ。
「はにゃしてー!(離してー!)」
「うるさい。」
ぱッといきなり頬を離されてドザッっと地面に落ちる前に、包んでくれた腕は知っている香りがした。