「病人だろ、すこし優しくしてやったらどうだ?」
クロロだ…。
もう会えないと思ってたのに。
死ぬと思った直前に胸がすごくあつかった、あの時と同じくらい今涙がでそうだ。
「団長…私、ごめんなさい。迷惑かけて。」
「ああ。」
うう、怖い。怒ってるなこれは。
「じゃ、おれ仕事があるから行くけどオーラが戻るまで寝てなよ。」
そして猛スピードで出て行く従兄弟と「邪魔だから…」と言って出て行った団員3人に放置され今はクロロと二人でこの小屋にいるのだが
何だろうこの気まずさは。
今までなら嫌みの一つでも言って、追い返して追い返されの関係だったのに死を目前に気づいた自分の気持ち。
こんなのは初めてで何を言ったらいいのか分からない。
「。」
低いテノールに呼ばれ一瞬ビクッっと体が反応した。
「…団長、今回のことう本当にごめんなさい。」
ベッドの脇に置かれた椅子に腰をついて見つめてくる彼の目はまっすぐだ。
はぁ、っとため息を吐いてベット脇のいすにと壁に体をもたれさせるクロロの目が私を覗き込んだ。
「俺がお前と一緒の時間を持つようになって何年になる?」
「2年…かな。」
そうか、と呟いた彼の質問の意図がみえない。
「言葉にしなくても分かると思っていたのは俺だけか。」
「あの、団長?」
何のことを言ってるのか、と聞きたいけど聞いていい雰囲気じゃないと思うのは私だけだろうか。
「今回は蜘蛛の団長としておまえを助けたわけじゃない。それに2人の時は名前で呼んで良いと言わなかったか?」
二人でいるときは名前で良いと、そう言われたのは体の関係を持って半年くらいしてからだった。
そんな急にいわれても、ってあの時つっかかった私をクロロは無視して本に目を落としてたっけ。
そして現在になってもそれに100%慣れたわけじゃない。
「クロロ、私ね…。」
今まで言葉にしたことのない素直な気持ちを口に出すのはとても勇気がいることだ。
「死ぬと思った時にね。」
まだ、彼の目は私に向けられているけど、私はどうしてもそれを逸らしてしまって、その代りにまた胸のほうが締め付けられるような感覚。
あの時と同じように視界が濡れてきた。
「なんでだか…クロロ名前呼んでた。」
変だよね、今までこんなこと言ったことなかったのに…
「二人でいて何をするでもないけどね。」
涙が一つ落ちたところでクロロが私の手を握ってくれた。
その暖かかさにまた涙がひとつ落ちる。
「そんな時間が…私にとってすごく大切だったみたい。」
旅団の中でも普段はパク並みにクールで、殺人においてはフェイタン並みに残酷だと言われてる私が
恋沙汰で泣いたなんて団員が聞いたらどんなに笑われるかな。
クロロが髪をかきあげるとサラサラな黒髪が優しく揺れた。
「4日前、会う約束をしたな。」
「うん。」
4日前。私があの男に拉致された日だ。
そう、あの日はクロロと出かける予定だった。
いつものように突然電話が来たかと思ったら「出かけるからアジトで待っていろ。」と言われたんだ。
「あの日…呼び出したのは俺の家に通そうかと思ったからだ。」
は?
「家」という彼からは聞きなれない言葉に思考が一時停止した。
「クロロってちゃんとした自宅持ってるの!?」
仮家なら数多くあるのは知ってる。その一つじゃなくて?
「買ったのは1年前くらいか。まだ本くらいしかないがな。」
あの、本しかない家に通して何が楽しいんですか?と真面目に聞きたいけど聞いたら噴きだしそう。
「夜景のきれいなマンションで毎日ワインを呑むのが夢だとマチ達に言っていたのだろう」
「・・・え?」
いつの話だそれは…もしかして1年以上前に飲み会でマチに言ったアレか?
「部屋数も多い一軒を買った。一応バスルームを分けるのに風呂場も2つある。バルコニーからは世界3大夜景の一つが望める。」
「クロロ…それってもしかして。」
一緒に住もうってこと?
「、今回一回死んだと思って俺とやりなおしてみないか。」
「女の子ってさ、言葉に出さないとなんでも悲観的に思うらしいよ。」
数時間前、イルミに呼び出されそんな話をされた。
「俺の婚約者がさ、と仲が良いんだよね。彼女が言ってたんだけどなんだかを見てると可哀想になるらしい。
はクロロとの関係を体だけだと思ってるから、って。クロロの話をしてる時はすごく幸せそうなのに心では他人だなんて、なんでだろうね。」
「おまえも人の心配の一つくらいするんだな。」
「それ嫌み?一応さ、親族唯一の女の子だから大切なんだよね。」
「俺がなんでもない女と1年以上交流を交わすと思うか?」
出されたコーヒーに手をつけるとそれは少し苦かった。毒だな。
「クロロが?まさか。君にとってが特別だって分かってるから今まで何もいわなかったんだよ。」
「じゃなかったらとっくに親父に依頼してキミ殺してるよ。」
風が吹き込む。少し冷たいけど、日だまりにはちょうどいい。
「無理に一緒に住めとは言わない。ただ俺のいないところで今回のようなことは二度とごめんだ。」
毎回今回のように上手く助けに行けるとも限らない、と抱きしめてくれている腕が暖かい。
ごめん、泣きたいわけじゃないんだけど…また目が濡れてきそう。
「私・・・今まで気付かなくてごめん。」
思えばいつも、ホテルを出るのは私が先で。
食事の誘いを断っていたのも私で
一緒に何かをしようなんて誘ったことのなかったのも私。
中途半端な存在で良いと思っていた。
都合よく使ってくれるだけで満足だった。
本当は好きだなんていって、拒否されるのが怖くて
不安で、素直になれなかった。
「ねぇクロロ。元気になったら家具見に行こうか。」
どうもありがとう、と抱きしめ返せば一瞬驚いたような顔をして、キスをくれる。
2年間一緒にいて、やっとこんな簡単な愛情表現ができるようになった私達の関係を
神様なんて馬鹿な存在がいたとしたら何と言うのだろう。
END