心境探知機
「クレフ〜…いる?」
忙しすぎていつどこに居るか分からない探し人をとりあえず部屋に訪ねてみた。
「ウミか。いるが、どうかしたか?」
程良く光が差し込む室内は外よりも少し涼しい気がする。
「あら、休憩中?プレセアに頼まれてお茶持ってきたのよ。」
テーブルに一式を下ろすと急に肩が軽くなった。ん〜…っと腕を伸ばして背伸びすれば、それを見て微笑むクレフが隣にいる。
「わざわざ悪いな。プレセアは忙しそうか?」
ティーポットからお茶を二人分注いでそのうちの一つを受け取る。
「フェリオのところに仕事を置きに行ったらクレフのとこに行くって言ってたわよ。」
ありがとう。と付け足してカップに口をつけた。
ふとテーブルに置かれていた水晶に目を奪われた。
昨日来た時こんなのあったかしら?
「クレフ、なぁにこれ?すごく綺麗ね。」
「バレルだ。セフィーロの宝石と言われている鉱物で、主に飾りものや調度品に利用されている。
どの方角から見ても七色に光るだろう?プレセアに頼まれていてな、今日渡す予定だった。」
「本当、不思議だわ。触ってみてもいい?」
「あぁかまわない。」
指先が石に一瞬触れた時、七色に輝いていたバレルは一瞬のうちに真っ白な塊へと色を変えた。
「えッ!?う、うそ。ごめんなさい!」
慌てふためく私を見たクレフは本当に楽しそうに笑っていた。
「大丈夫だ。それよりウミ、おまえ恋でもしているのか?」
「・・・え?」
今度はクレフの指先が鉱物に触れる。純白はまたその色を変え薄い緑白色になった。
「この鉱物はな、触れたものの心に反応するのだ。白は典型的な恋煩いをしている者の色だ。」
「図ったわね・・・。」
私が不機嫌です、と言わんばかりに響いたかもしれない。
”恋してる。”なんて言える訳がない。相手が誰かも知らないで。
「いや、そんなつもりではなかったんだがな。」
「それより、クレフの心に反応したこの緑白色はどういう意味なの?」
「これか・・・。緑は冷静・忠誠を誓う色だからな。大方セフィーロへの信頼と言ったところか。」
「なるぼどね、クレフらしいわ。」
身につけている時計を見ればもうお昼を廻っていた。
「いけない。私、光と約束してるの。もう行かなきゃ。」
「あら、ウミ。もう行くの?」
部屋を出ようとした時にプレセアがちょうどいいタイミングで入ってきた。
「うん、二人ともまた夕食でね。」
「ええ。」「あぁ。」
駆けていくウミの背中を見送ってバツが悪そうにプレセアに向き合った。
「聴いていたか?」
「はい、申し訳ありません。」
謝っているわりにどこか楽しげにバレルに手を伸ばす。しかしその七色が変わることはない。
「さすが、バレルの色を中性に保てるのは創師だけだな。」
いくら相手が導師といえどもバレルは正直だ。
「緑白色の系統はまぎれもなく白。白系統の緑が意味するのは”遂げられぬ失望”。」
好きな相手に「好き。」とただこの一言を言えない導師の悔しさが色に現れた瞬間。
彼は、想い人であるウミとバレルを前に何を想ったのかしら。
プレセアが口にした本当の意味を、私がウミに告げていたら何と言っただろうか。
相手は誰だと探っただろうか。
彼女が触った時、セフィーロの宝石は純白へと変わった。
相手は大方、アスコットだろうか。
まっすぐな恋をしているようだ。
今日、プレセアが引き取りに来てくれてよかった。
もし明日もう一度触っていたら今日よりも白の中に緑が濃く出ただろう。
恋煩いか。
まさかと思っていたが本当らしい。
「叶わずとも・・・・。想うは自由。」