海と太陽と君の愛 「やれやれ、やっとだな。」

最後の書類にサインをして、椅子の背もたれに体を任せた。一度大きく腕を広げ深呼吸すると張り詰めた気が緩んだように体がだるく感じる。

書斎の奥には寝室。彼女はいつものごとくもう寝ているだろう。

その部屋の扉前に置かれたトランクに目を細めて、書斎机の明かりを消した。



















「2人で出かけるなんて何年ぶりかしら。」

早朝トランクを移動させながら嬉しそうに笑うウミ、こんな表情が見れるのだから仕事休みはありがたい。

「初めてのような気がするのは私だけか?」

「んー・・・もしかしたらそうかもね。」

「で、何処に行きたいんだ?」

「結構前に光達とみんなで行った海沿いのコテージ!」

「了解。」

だって、あのコテージとても可愛いんだもの、光り始めた移動の魔法陣の上でそんな会話をした。







着いたのは浜辺近くに建てられた一軒、もともとは民が使っていたものをエメロード姫の時代、彼女の別荘用に立て替えた。

部屋の中にトランクやもって来た食料を置いてウミと散歩に出る。天気はいつもの事ながらすばらしかった。

「不思議ね、此処はいつ来てもセフィーロじゃないみたいに感じるの。」

「確かに普段私たちがいる城のあたりとは似ても似つかないな。」

「こんな風景地球にもあるわよ。ハワイとかグアムあたりね。」

「はわい?」

「そ、私達の国で結婚旅行人気ナンバーワンよ。」

それを聞いてなぜ彼女がこの旅行をここに選んだのか理解できた気がする。

まだ見たことのないチゼータにも行くことができたのにそれを選ばなかった理由、それは・・・。





チキュウで祝うのと同じ形にしたかったからか。



繋ぐ華奢な手に力を込めて、ウミがセフィーロを選んだときのことを思い出した。

両親も友達も自分の世界に置いて私を選んでくれたその当時の辛く不安であっただろうこと。

そこで少し足を止める。



相手が立ち止まると思っていなかった彼女は彼の腕を一度引く形となった。

「クレフ?どうしたの?」

「ウミ・・・。不自由はしていないか。」

「不自由?」

あまりにもまっすぐに見つめてくる蒼い目。きょとん、とした瞳がとても愛しい。

「辛いことや悩みがあったら言ってくれ。」

「それはちゃんと2年前に約束したはずよ、クレフ。」

悩みがないから相談しないのよ、と笑う彼女の体を一度腕に収める。





「そうね、でも・・・。」

私の背に腕を回したウミが思い出したように続ける。

「休みが取れなくて新婚旅行を2年先延ばしなんて、私・・・もう無理だと思ってた。」

グサッっと痛いところを疲れ、目元が引きつる。 そう、結婚という公式なものはセフィーロにないために、一緒に住むようになったことを「結婚」した、とすることにした。

それが2年前、その後休みを取れる状況ではなく今回ようやく3日間時間を作ったのだ。

風がフェリオ王子と旅行に行ったのは確かに婚儀のすぐあと。はねむーんというらしいソレは地球の女性にとってとても大切なのだとか。

ソレを放置してきたのだ、ウミが私といることに不安を抱いても仕方ないことだった。

「・・・すまない。」



冷や汗を流した私の様子に気がついたのか、ウミが海に向かって走り出した、

「そうじゃなくって!」

一度振り返り、笑う笑顔は格別だ。

「もう行けないんじゃないかなと思ってたの。約束守ってくれて・・・連れてきてくれてありがとうクレフ。」









瞬間、顔がとても熱く感じた。彼女の笑顔光線だ。そのまぶしすぎる笑顔は何度見ても見慣れない。

冷静を取り戻すために赤いであろう顔を一度手で覆って、海へ足を伸ばした。

相変わらず笑顔で砂浜を行く彼女の手を取って、引き寄せる。

「できない約束はしないが、私はいつでもウミと二人でいたいと思っている。」

靡く薄紫の髪が彼女の頬を掠める。そして彼女は満足そうに言った。

「・・・そんなこと言っていいの、もう死ぬまで離してあげないわよ。」



面を食らった表情を見せたクレフは口元を軽く吊り上げウミの耳元へ近づけ囁いた。

「歓迎だ。」









結婚2年、まだまだお熱い2人のハネムーンは始まったばかり。

あと2日、どんな日々を過ごすのかはこの2人だけの秘密にしておこう。






















あとがき:

リクエストいただきました「新婚旅行のお話」です。甘いのか?

ほのぼの止まりになってしまったようで申し訳ないです。

最近レイアースの更新をしていなくて、みなさんお待たせしてしまっています。ごめんなさい。

でもIchのクレ海に対する愛は永遠です!また新作品をご贔屓にしていただければ幸いです。