恋を越えた関係図 導師ハンは今まで付き合ってたオナゴいたんかい?

昨日の晩餐、カルディナとラファーガのケッコン2周年を記念して酒やら食事やらが集められ行われていたお祝いパーティーで恋愛の話をしていた女子軍団、団長カルディナがいきなりクレフに投げかけた質問がこれだ。
ちょっと、ウミもいるのよッ!とプレセアが間髪入れず小声でフォローを入れるがすでに視線は質問されたクレフへと向いていた。
当の本人は驚いた顔を見せたが何事もなかったかのように食後の一杯に手を伸ばし
「・・・700年も生きてるからな。」と至って冷静な御一言。

「ええ!?俺はすっかり童貞だと―。」と言いかけたフェリオに隣のクレフ、左斜め前のプレセア、そして右斜め前に座る風から皿が5,6枚飛んできたことは言うまでもない。



恋人か。何百年も前の出来事を思い出してみる。普段、昔の記憶が必要になったときなかなか思い出せない息苦しさを味わうものだが、感情が高鳴ったり、相手の一言に一喜一憂したことはなぜか簡単に記憶の底から蘇ってくる。
あのころ私の周りには人と人がじゃれ合う騒がしさはなかった。
私も独り、彼女も独り、自分に与えられた責任と向き合うように静かに生活していた。
ただの同僚とでも言うか、職務以外についての会話なんてほとんどしたことがなかった間柄が、そのうちお互いが似たもの同士と気づき自然に身を寄せ合った。
100歳の年齢差なんて、まったく気にならなかったものの、価値観というものが余りに違いすぎた結果が「終わり」だった。

「私はね、この国が大嫌いだわ。」
彼女の一言からイザコザに発展してしまった時、私の冷静さというものは心の中から姿を消し、理由を聞く余裕さえない程に興奮しきっていた。

セフィーロを愛し、その全てを守りたいと思った導師候補と、
セフィーロを嫌い、柱制度を疎い、国を変えたいと願った導師候補。
結局私が導師の座を得たとき、「正しいのは自分だ」と鼻高々に思っていた。
だが500年経った今、此処にある結果を見てみれば正しかったのがどちらだなんて一目瞭然だった。





「ねぇクレフその人どんな方だった?」目の前で恋人の昔の話をされて不安になるどころかとても好奇心旺盛な声。
不謹慎と知りつつもやはり好きな人の前科は気になるものである。それほど自分がクレフに愛されているという自身でもある。
以外に真剣な、そして見つけてくる数が増えた(特にカルディナと王子の方から)眼差しに押されて、口を開かないわけにいかない。

「彼女は・・・私よりもこの世界のことを考えていた。幸せな国にしたいと願っていた女性だ。
冷静沈着。ちょっとしたことでは動じない性格と、仕事はその日のうちに全部かたずける几帳面さを持っているが・・・放っておくと眠りもしない食べもしない、篭りっきりで部屋から出ようとさえしない。正直、私よりも厄介な存在だろう。」

「え?」 指を唇に当てて、顔を上げたプレセアには心当たりがあった。
高官の職務を補佐する仲間の間で有名な「彼女」。年齢もそれ相応なはずだし、彼女が導師のいう女性なら今、クレフが現在形を使って話をしたことにつじつまが合う。
クレフの目を見れば 「内緒に頼む。」 と心に伝わるテレパシー。


他のメンバーは様々な空想を頭で繰り広げているらしい。

ってことは導師よりも厳しいってことだよな・・・。怖ッbyフェリオ
クレフさんのお相手というとその方もクレフさんサイズなのでしょうかby風
俺は誰だか知っているbyランティス
クレフの元カノさんかぁ!今どこにいるのかな?by光
導師が自分の話をするなんてめずらしいこともある。byラファーガ








「ありがとう。」ヒカルが導いたこの世界を目にしたとき、彼女は私にそういった。
魔法騎士は私だからこそ導くことができた、自分では成し得なかった、そう彼女は言った。
涙混じりに「ありがとう。」と何度も告げる彼女。柱が消滅した世界に立ち大きく深呼吸をする彼女になぜだか当時のことを謝りたかった。
「悪かった。」と一言告げたかった。








「それよりウミ、まったくヤキモチの一つも妬けないのか?」昔の恋人の話に楽しそうに耳を傾ける彼女に対して抱いている感情は、あのころ持っていた感情とは別物だ。
彼女の仕草をいつしか目で追っていて、綺麗だと見とれる。
これが本当の恋かと気づいたとき、ではあの彼女に対して持っていた感情は何だったのだろうと自問した、その答えを見つけることができたのはごく最近だ。

400年、それは私達の関係が終わってから言葉を交わさなかった年月、そして同じ空間にいる時、目さえ合わせなかった年月。
そんな冷え切った関係を破った彼女のあの「ありがとう。」という声。その声を聞いたとき、なぜだろう長く会えなかった古い親友に再会したような、そんな気持ちになった。

「妬かないわ。だって私がクレフのこと大好きなんだから。」
大好きという部分は声を小さめに真っ赤になったウミを前にたまには意地悪の一つもしたくなる。
「苦しいくらいに好きになったのは、お前が初めてだよ。」
他の者に聞かれないように心でささやけば更に真っ赤になる彼女に乾杯。

今日は呑みたい気分だ。






そのころ4階上のある職務室で、盛大にクシャミをして飲みかけの紅茶を書類に噴出してしまったご当人。
「…書類が。誰が噂してる?見つけたらぶっ殺す。」クレフと並び高齢で周囲に心配されているがどうやらご健在の様である。