終われない夢の中
別れよう。こんなに短い言葉なのに、告げられたときの衝撃はどんなに長い言葉を告げられた言葉よりも凄まじい。
ガラスが心臓に刺さるかのごとく胸が一瞬グッと痛くなって、体が熱くなって、涙が出てくる。
高校生の時、初めて経験したこの痛みはきっと神様が私に与えた罰。
クレフを忘れるために誰かと付き合ってみようと思った夏。
私のおろかな考えの犠牲者となった彼に告白されOKを出した冬。
心がいつも此処にあらずだった春。
「いつも黄昏てどうしたの?」と聞かれて「何が?」と答えていた夏。
そんな冷め切った関係に彼がついに結論を出した秋。
「導師には勝てないな・・・。」
私を抱きしめて「別れよう。」を告げた。小刻みに震える腕が「これが最後だ。」と言っている。
彼の背中がだんだん遠ざかっていく。悲しみをたくさん纏って。痛々しいくらい傷ついているなんて初対面の人が見ても分かるほどに。
嫌いだったら付き合ってなんていなかったし、彼のことを好きになろうと努力もしたけどダメだった。
それほどに今も深くあのころの恋心が私の中に住み着いているのだ。報われない恋に、もしかしたら一生を縛られてしまうほどに。
一筋、瞳から零れ落ちた涙はそのまま地面へ落下する。
私は最悪だ。
流した涙は終わってしまった恋愛ごっこへの後悔ではなく、罪悪感だった。
「アスコット、私・・・ほんとうにごめんなさい。」
私の言葉に反応して足を止める彼。振り向けば、もう私が知っている彼氏の顔じゃない。
「かなり前から気づいてたんだ。」
「・・・いつか振り向かせて見せるって思っていたけど、昨日ウミと導師が話していたところを見ちゃってね。僕といるときよりずっと素敵な笑顔で笑ってた。本当に幸せそうだったよ。」
「ウミには幸せになってもらいたいって、何度も言ったよね。だからもう僕という鎖は外そう。」
「君の心は僕を受け入れなかった、ただそれだけのことだから。」
必死で涙をこらえている瞳が涙を落とさないように瞬きするのを拒んでいる。
ボロボロになった心を抱えて、また歩き始めた彼を、私はずっと子供だと思っていたけれど違ったようだ。
アスコットは私よりもずっとずっと大人だった。
戻れない。
恋人にも。
友達にも。
ごめんなさいすら、もう届かない。