僕の願いコト





アスパラサラダ 夜は静かなのがいい。

月は明るすぎないくらいがいい。

星は月に負けないよう輝くのがいい。

夜は本当に心が落ち着く。









先ほどまで腰かけ向き合っていた机から身を離し、夜特有の風に吹かれたくて出た中庭には一年を通して花々が咲き香る。

彼女が言っていた四季と言うものがこのセフィーロにあるわけではないけれど、花は咲く時期を選ぶ。

その時期は見事にバラバラで、そのおかげでこうやって毎日違った花に出会える。

今は白い花の代名詞、カーレルが一面に咲き、月明かりを受けて輝く姿は格別に美しい。









「まぁ・・・導師クレフ、こんな遅くにどうされました?」

高すぎない心地いい声をかけてきたのは庭の整備師、ミラ。

かつての戦いのときはまだ幼かった彼女も今では慎ましい女性に成長し、城の庭を任される存在となった。

「すこし夜風にあたりたくてな。おまえこそこんな遅くに何をしているのだ?」

「私は整備師です。夜の庭の見廻りを・・・という名目でこの花を見に来ているんですよ。」
この花ほど夜を飾れる存在はありませんから、そう付け足して笑った。

「そうだな。」
何となく、一本手に取って薫を嗅いでみる。甘いけれど、嫌な甘みではない。

すこしさっぱりしているかと思えば、果実のような清々しさも感じられる。





この花は、彼女を思い出させる。

強がりなのに、甘えたがりで。

優しい心の持ち主で、凛として見せる姿が美しい。













「導師、毎日ここで何を思われているのですか?」

驚いた私の顔をみてミラは何か心配そうな表情をみせた。驚いたのは偶然だと思ったからだ。ミラが今日私の前に現れたのは。

「ここ最近、毎晩のようにお見かけします。お邪魔はしたくなくて声は掛けなかったのですが。」

「バレていたか。」

「申し訳ありません。」
聞くのではなかったと彼女が思っているのが手に取るように分かった。

「謝ることなど何がある。…そうか、私もおまえが近くにいることすら気付かなかったほど考えこんでいたのか。」





導師クレフが悲しそうに、それよりも切なそうに目を向けたカーレルの花。

その表情に一瞬見とれてしまったのは嘘ではない。





”まぁ、ありがとう。綺麗な花ね!大切にするわ。”

エメロード姫が亡くなり、お城に避難していた時に知り合った異世界から来た救世主。
三人とも笑顔が素敵なお姉さま方。その三人にプレゼントしたのがこのカーレル。
特に美しい青色の髪を持った彼女の笑顔はとびきり素敵で、この十年忘れたことなんてない。



一度、噂になったことがあった。

お二人は恋仲だと。



だけど・・・。





「ずっと・・・想われているのですね。」

同情しているわけではない。

ただ、他人ごとでもこんなに切なさを感じるのに。

この男性は、そんな想いの中で生き続けている。









「夜風に吹かれたいと思ったのは口実だな。」

彼の切ない表情が、愛しさを帯びた表情に変わった時、口づけたカーレルが彼女であったらいいのに。

「”会いたい”と、願いに来た。このカーレルの花に。」























願うだろう。

私は諦めが悪いから。

彼女に会えるまでは

きっと死ぬまで。