やるときはせっかくだから大胆に
やるときはせっかくだから大胆に 目下、セフィーロで最も忙しい人物ランキングに間違いなく一位にランクインされるであろう人物、導師クレフと
”伝説”のため異世界から召喚された蒼い髪を持つ女性が関係を持ち始めてから、もうかれこれ三週間になる。
風や光のカップルと違いお互いがお互いを受け入れるまでに時間がかかったこのペアには付き合い始めたからといって
二人だけの時間にあるキスや抱擁以外、周りに見せる姿に特に変わったことはなく、いつものように仕事に向かうクレフに海がプレセアに代ってお茶を淹れたり、
天気が特にいい日には散歩に出たり、そんな毎日。

もちろん見せびらかすことを懸念クレフ、あまり騒ぎだてを起こしたくない海なだけあって
実は光をはじめとする他一同がいままでのこの二人の関係が劇的に変化したことには気づかずにいた。









「クレフ!なんで言ってくれないのッ!?」

バンッと元気よく書斎の扉を開け問うてきた海にクレフはいささか驚いて振り返る。

「ど、どうしたんだいきなり。」

「風と中庭をお散歩してる時、お城の人から聞いたのよ。もうすぐクレフの誕生日兼、導師就任500年祝い?

あれ、550年?まぁいいわ。そのお祝いの式典が大々的に行われるって!!」


クレフははぁと一つため息を漏らす。

「450年だ。」

なんで自分に言ってくれなかったのかとぶぅぶぅ言う彼女を前にクレフはふと想った。

”もう450年経つのか。”

「式典と言っても各国から訪問者が訪れるだけだ。しかし…晩餐会は立派なものになるだろうがな。」

「もしかしてチゼータからも?」

「あぁ。」

それは今度こそ二人に渡しそびれた誕生日プレゼントを送らなければと海はとてもうれしそうだ。

「ウミ・・・。」

クレフは立ち上がり海へ近付きその華奢な体を抱きしめた。

身長も今ではクレフの方が高い。こんな状況になるとどんなに興奮していても、怒っていても 大人しくなってしまう海だった。

「その晩餐会、すこし驚かせてしまうかもしれないな。」

首をかしげる彼女、クレフ腕の中でまだその真意を理解できていなかった。




















式典の前日、クレフは街を訪れた。

自分の愛する国の愛する民に逢うために。

街に入れば駆け寄ってくる民、その笑顔を今でも見れるのは魔法騎士三人のおかげだ。
あの伝説が過ぎてから、すべてが終わってからクレフは頻繁に街に下りるようになっていた。
幸せな人々を見ることで自分にも元気が湧いてくるような、そんなことはそれまでなかった。


そんな幸せな今があるから、自信はあった。

彼らは、セフィーロは私と海を歓迎してくれるだろうと。

「導師クレフ、以前頼まれていたものぎりぎりですが仕上がりましたよ。」
外の騒ぎに気付き一人の女性が家から顔をだし、クレフに歩み寄りソレを渡す。

「これは・・・すばらしいな。礼を言う、ありがとう。」

微笑むと女性はまた家へもどって行った。

「みんな、体には気をつけてくれ。また顔を見せよう。」

そう笑い街を後にしようとしたクレフに

「もう超御高齢の導師に言われちゃたまんねぇな!」

そう笑う民に面食らったような顔をして「確かに」ともう一度振り返り微笑んだ。


















その晩、一枚の紙を持って城使いの部屋を訪れる。

「遅くなってすまなかった。」

そう差し出す紙には晩餐会の席順が記されている。執務から書いて提出するように言われていたのだ。
「いえいえ。人数は確定していますゆえ、あした御来賓を御席まで案内する際に必要なものです。」
執務長フォードは渡された紙にさらっと目を通す。下座から上座まで計100人が座れるように手配された大広間で晩餐会は開かれる。
「・・・・導師、これは書き間違いなどではありませんね?」


上座にある名前を見つけフォードは確認を取る。

「あぁ、その通りに。」

不敵に微笑みクルッと部屋を後にしたクレフをこの人は流石と思うフォードだった。


















クレフは大したことない式典だとか言ってたけど、これは充分大した事ある式典ってことよね。

式典当日の城はいつもの静けさを想像させないほど慌ただしかった。

朝早くから起こされ、光、風と共に衣装室へ呼び出されまるでマネキンになったかのように ドレスを始め髪飾りやら、装飾品を飾られている。

「まぁ光さんとても似合いますわ!」

一番最初に着替えさせられた光、白と桃色を基調にした華やかなドレスを身につけとても恥ずかしそうだ。

「本当ね!やっぱり光は髪をおろしてるといつもと感じが違うものッ」

「ウミ様、どうぞこちらで御召し物を御着替えくださいな。」

じゃぁね、と二人に手を振り着替え室へ入る。そこにはすでに海のために用意された品々が掛けられていた。

「まぁ、すごくきれいなドレスね。」

水色の絹のような布にあしらわれ、裾は長くレースをはおったかのようなドレスに宝石がなんとも豪華な品。

「実は、今朝、導師クレフ自らこれをウミ様にとこちらへ持ってこられたのですよ。」

そんな目を輝かせているウミをみて御世話係は頬笑み耳元で囁いた。

「これ、クレフが・・・?」

ボッと顔が熱くなるのを感じる海だった。




















異世界の魔法騎士、当時の彼女たちと心は何ら変わらない。

しかしあれから数年経った今、大人びた三人。

衣装を着替え三人並ぶだけで何とも言えない美しさと華厳さがその場に立ち込める。

三人を迎えに来たカルディナとアスコット、ラファーガ、は一瞬言葉を失ったほどであった。

「いやぁ〜・・・お嬢さん方ほんまきれいになったわなぁ。」

アスコットに同意を求めるが彼の視点は海だけにあるようで周りの話など聞こえていない様子。

「ほらアスコット!ラファーガ!お嬢さん方をエスコートしいな!」

二人の背中をバンッ!と一叩き。その加減のなさにアスコットはよろめきながら海の前へ立った。

「ウミ・・・・本当にきれいだ。」

だんだん声が小さくなっていくアスコットにありがとう!と蔓延の笑みでこたえる海に腕を差し伸べ歩き出す。
「フウ、私ですまないが・・・」
「とんでもありませんわ。よろしくおねがいします。」

ラファーガと風を並べるとなんとも大人な雰囲気。

カルディナは光に寄り添って一同長い廊下を目的の広間まで進む。



歩いている途中でカルディナは下を向く光の様子に気づき顔を覗き込む。

「ヒカル、どないしたん?」

「実は、このドレス、ランティスが用意してくれたらしいんだ。」

顔を真っ赤に染める光の背中をバシバシ叩いてカルディナは、

「なら、お礼言っとき。導師の付き添いすんだらうちらのとこ来る言ってはったし。」

そう笑った。


















「つ・・・疲れた。」

ランティスに文句を言うのはフェリオ。

彼は来賓のセフィーロ到着から導師謁見までの案内を任されていた。

本当ならそれで済むはずだったのが城の執務フォードに呼び止められ晩餐会の酒の買い出しに同行させられていたのである。

晩餐会とは聞こえは雅なものだがその卓上に喉を潤すために置かれるのは酒だ。

初めは団欒とする食事会が次第に宴会へ代っていくだろうことは想像がついたが、まさかあんなに大量の酒を買わなければならないとは夢にも思っていなかった。

「王子、私はそろそろ広間へ行くが導師を任せていいか?」

そう、フェリオにはまだやらなければならない仕事が残っているのだ。

「あぁ、行ってくれ。つぎに会うのは晩餐会だな。」

ランティスがいなくなったあとすぐにクレフの部屋から退出した来賓を控室に案内し、 クレフとフェリオは一足先に晩餐会会場へと向かった。





































クレフ、フェリオが晩餐会の席に着いた時、

魔法騎士の三人、カルディナ、アスコット、ラファーガそして合流したランティスが広間でくつろいでいる時、

チゼータ、ファーレン、オートザムの来賓が晩餐会への支度を済ませたとき、

城中に響き渡る角笛の汽笛が晩餐会開始の合図を告げた。










晩餐会会場の扉はおそらくこのセフィーロ城でもっとも立派に大きく作られたものだ。

その扉の前に招待された総勢約100人が揃った時、二つの翼はぎぃっと押しあけられた。


開けられた扉の前には執務長フォードが立ち、一同へ歓迎の挨拶を述べる。

その後一人ずつ名前を呼ばれ、使いに席へ案内されるといった具合だ。

光とランティスが呼ばれ二人一緒に席へと案内される。

「すごい・・・こんな部屋があったんだね。」と唖然とする光の反応も無理はない。

豪華を極めたその部屋は普段、彼らが使用する部屋とはまるで格が違う。

部屋に足を踏み入れた王族であるタータ、タトラが驚いたほどであった。

そしてその部屋の一番奥、上座にクレフがすでにかけているのが分かる。

クレフに近ければ近いほど身分の高い存在になる席順だ。

もちろん各国からの来賓を優先して上座に置くため フェリオでさえクレフからいささか離れた席に座っている。




来賓のほとんどが席へ案内された後に光、風と海の名前が呼ばれた。

フォード直々に案内され進むその三人並んだ美しさにすでに席に着いた者達から驚きが起きる。

「フウ様はフェリオ殿下のお隣りへ、ヒカル様はランティス様のお隣です。」

先に席に着かされた親友二人、一緒に座るのだろうと思っていた海は


「ちょっとまって。私はどこへ座ればいいの?」

と慌てた様子で尋ねた。

「ウミ様の御席はあちらです。」

執務長フォード直々に腕を伸ばして海の為に用意された席を指す。




海を知る者は皆、彼女がどこに座るのだろうかとその示された席を見る。

そこは上座のすぐそば、主賓が座る左側の席であった。

「どうぞこちらへ。」

フォードに導かれるがまま上座へ足を伸ばす海。

彼女が席まであと5メートルという地点まで来たとき、クレフは静かに立ちあがる。

「ウミ・・・思った通りよく似合うな。」

クレフは海の全身を一度見て彼女に腕を伸ばす。教養ある人間なら、女性を一人で歩かせたり、席に着かせたりしないものだ。

そんなクレフのエスコートに身が縮みそうなほど恥ずかしく、嬉さを感じる海。

「まぁ、あの二人・・・フフフ。タータ、先を越された様ね。」

「・・・そんなぁぁぁぁ!!!!」


座る来賓はそんな二人のやり取りを間近にしてそのほとんどが気付いていた。

上座の一番近い席に座る女性、すなわちクレフと一番親密な関係を持つものと。

「…全く気付かなかったな。」

フェリオは参ったといった感じ。しかし
「あら、私はなんとなく気付いておりましたわ。海さん最近特に楽しそうでしたから。」

シラッと言い切った風に一同感心するのだった。

「ちょッ・・・アスコット何しとんねん!乾杯はまだやろ!」

カルディナの隣ですでに一人酒を始めたアスコット。

こうなったらやけ酒だという勢いだ。かわいそうに。



















海を席に着かせクレフは自分の席にかけグラスを手にする。

それと同時に来賓約百人もグラスを持ちクレフに視線を送る。

「今日、この日のために集まってくれたことに感謝する。私が導師に就任して450年。

セフィーロは美しくなった。今があることを何よりうれしく思う。今日の晩餐、私のためと思わず存分に楽しんでくれ。」

乾杯。と一同の声で始まった晩餐会。



お酒が廻るころにはみな自分の席など構わず大移動。

クレフの元へ挨拶に来る来賓は必ず海に会釈をして戻る。それを不思議に思った海。

「何でみんな私に挨拶するのかしら。」

それを聞いたタータは信じられないといった感じに海に食って掛かった。

「お、お前ッググ・・!」

隣のタトラに口をふさがれて言いたいことも言えない。

「まぁタータったら。それは導師クレフが説明なさることでしょ?」

笑うタトラを前に余計意味が分からない様子の海。


コホン。と咳を一つ。

「ウミ、お前が今座っている席は・・・私に一番近しい者が座る席だ。」

しばし目が点になる海。

「つーまーりー!!!」
タトラの手から解放されたタータ
「導師クレフの妃が座る席だ!!!」
ブッっと飲みかけていた果実酒を噴き出しそうになる。
どうやら海はここまでクレフの意図を理解していなかったらしい。

「ウミ、気づいてなかったのか。」

いつの間にか二人の元へ来ていたフェリオ。

えぇ。と言葉少なげに返す海の顔は真っ赤だ。

ただ、”驚かすことになるかも”と言っていたクレフの言葉の意味をこの時理解した。

「皆に告げる機会を逃してしまったからな。この形で周知させたのだ。だが隠すことではあるまい。」

違うか?といいたげな視線に心が解けていくような熱情。







そのご、海の耳元で何かをささやくクレフの言葉を聴くことができたのは彼女だけ。

そして顔を一段と真っ赤にする海をみて

””””やはり導師を敵にはまわせない。””””と一同心から思うのだった。

















「ウミ、今宵からは私の部屋で寝るといい。」