Rose Of Gloria
Rose Of Gloria
「何かしらこれ。」
セフィーロ城の長い長い回廊は頭を冷やすにはちょうどいい距離がある。
地球で言えば煉瓦のような素材が組み合わされてできた出窓に肘をついて、鳥のさえずりが聞こえる青い空に瞳を投げた。
セフィーロに来た時は、クレフやプレセアに顔を見るのが毎回のことで、彼の仕事場に二人がいることが多いから
焼いたお菓子を持って行くのが楽しみだったのに最近は行くこと自体に躊躇するようになった。
今日もそう、お菓子を入れたバスケットを腕に下げて、回廊を仕事場に足が伸びないのもそれが理由。
「やぁね、もう。」
「・・・?ウミ。」
窓際に置いたバスケットを手にかけ来た道を引き返そうとしたとき、その声に体が硬直する。
「くッ、クレフ!お仕事中じゃなかったの?」
本人は腕に抱えられた書類をクイッとあげてみせながら仕事中だったことを示した。
「回廊にずっとお前の気配を感じていたからな。王子に届けものもあったし出てきたのだ。」
反応を見せない私の顔を覗き込んで大丈夫か?と言う、今のあなたが見てる私の顔はきっと真っ赤だわ。
「考え事をしていたようだな、邪魔をしてすまなかった。私はそろそろ行こう。」
とってさに待って!と大きな声で言う自分に驚いた。
「あ、あの・・・あのね、私プレセアにやきもちを妬いてるわ。」
甘い匂いに誘われてやってきた黄色い鳥が飛んできて海のバスケットにたかり始める。
「ウミ?」
「あなたが好きなの。」
いつしかウミが持ってくる甘くないチキュウのお菓子よりも、持ってくる彼女の笑顔を見るのが楽しみになった。
どんなに疲れていてもウミが部屋にいる時間だけは何かに解き放たれたかのように不思議に楽になる。
隣に座り共に話すことが楽しみで、彼女達三人がセフィーロに来る時は仕事は薄めにしておいたのが常だった。
「導師はあの子を魔法騎士だったものだから可愛いという感情では見ておられないのですね。」
プレセアに言われた言葉を否定しなかったのは自分の中で答えが出ていたから。
しかし最近では、直接お菓子を持ってくることもなく誰かを経由して渡されることが多くなった。
顔を合わせるのは皆が集まる場のみでのこと。遠目にその姿を捕えながら
”この年にもなってした恋が実らないのは当たり前か。”
そんな自笑にも思えることを想った瞬間、締め付けられたような胸の痛みは本物だった。
そして今、様子を見に来た先で告げられた告白はあまりに突然で、思わず抱えていた書類を一気に落としてしまう。
「ちょッ・・・クレフ書類が!」
自分よりも早くしゃがみこんだウミと共に紙をかき集める。
なぜだろう、手が覚束ない。体も汗ばんでいる気がする。
「クレフ?あなた顔赤いわよ、大丈夫?」
掻き集める手を止めて凝視したクレフの顔からはいつもの白さがもはや失われていた。
「まさか先を越されると思ってなかたからな・・・。」
「え?」
「次にお前が私の部屋に来たら、さっき言われた言葉、そのまま告げるつもりだった。」
海の手に掛けられた書類を自分の手におさめて、バスケットに目をやった。
「仕事は休憩にしよう。ウミの持ってきてくれたお菓子で共にお茶でもどうだ?」
まだ座りこむ海、コクコクと首だけ頷いているが呆然としている表情。
「立てるか?なんなら書斎まで抱いていくが。」
覗き込み、不敵に笑う彼はやはり大人で、
はっと我に返り「たたたたた立てます!」と勢いよく起き上がった彼女の顔は焼きりんごのように赤かった。
あぁ、本当にクラクラする。
二人の足音が響く廊下、黄色い鳥は二人のあとを見守るように追いかけて行った。
Present for Cloudy Sky!