Dancing on the floor



「外、暑そうねぇ・・・。」

青の長い髪をお団子にしいかにも夏らしいワンピースを着た少女は売店で買ったアイスクリームを片手に東京の街を見下ろしため息交じりに呟いた。

「ええ、今日は36℃まで上がるようです。でも不思議ですね、冬は夏があんなに恋しいのに実際夏になると冬が恋しくなるのですもの。」




日本の夏は暑い。
だからこそ夏にはサーフィンや海水浴が素敵なのだが、太陽の熱にガンガン暖められたアスファルトからのぼる熱の歪み、
ただでさえ人がウジャウジャいるこの東京の街で夏を考えると少し気が引ける。


「でも幸せよー、こうやってクーラーの下でアイスを食べれるなんて。クーラーは世紀の大発明だわ。」
「本当ですわね。」

「海ちゃんー!風ちゃーん!お待たせ!!」
「光さん、2つ目のアイスは何になさったんですか?」
「今度はバニラにしたんだ!」
「いいわよね光は、食べても食べても太らないんだもん。うらやましいわ。」
「では光さんが食べ終わったら参りましょうか。」




少しこの暑さから逃避して、常春のセフィーロへ。














「今日は光達が来ますが、お仕事の方はいかがですか?」
王子フェリオが訪れたのは城の一室。

今の今まで部屋の中の書類をせわしなく片付けていた青年は、手に紙の塊を抱えたまま静かに振り向き笑った。
「片付いております。今度来るのは一週間後と言っていましたが・・・あれからもう一週間ですか。早いですね。 しかし・・・このまま彼女達に会うのはどうも気が引ける。」

「ははは、何を仰っているんですか。みんなきっとまたビックリしますよ。何よりお似合いだ。」

あまり嬉しくないといいたげに書類を元の場所に戻し やっぱりプレセアに切ってもらえばよかったと、青年は薄紫色の髪を窓から入る風になびかせ思った。





導師クレフは小さくて可愛い。
こんなことをいう者は、もはやこの国にいないだろう。
魔力を温存するために小さくしていた自分の体を、何百年ぶりか普通の体系に戻し、皆を驚かせたのは2週間まえのこと。
恋人さえ自分の姿を信じようとしなかったのだからよほど衝撃的だったのだろう。
先週、一緒に過ごした2日間、ウミは私に向き合ってまともに話をしようとしなかった。
今の私の姿が気に入らないのだろうか、好きになったのは小さい私だったからだろうか。


そして今週はこのありさまだ。
何を言われるか分かったものではないな。


体の大きさを戻してから、次に徐々に成長を始めたのは髪の毛だ。

ウミほど長さはないが、ヒカル位はゆうにあるほど伸びてしまった髪。

ある日起きて、散歩に出ればフェリオやランティスに美少女のようだとからかわれ、 プレセアには切ってくれと頼んでも”とってもお似合いなんです。

みんなに見せてからでないと私は切りません”なんて言われたり。

個人的に長い髪は嫌いじゃない。だが彼女はどうだろう。

やっぱり男の長い髪なんて抵抗があるだろう。邪魔なんて言われるくらいなら今すぐにも切りたい。

だが、もし喜んでくれたら・・・。

異世界の少女達の到着まであと半日、 確かにあるのは彼女の顔を見れる幸福と、今回はどんな反応をされるか分からない不安と。





少し頭を冷やしに行くか。

「王子、水浴びに行こうと思うのですがお仕事がお済なら御一緒にいかがですか?」

普段なら一人で行くことを好む彼に誘われフェリオは一瞬驚きながらも笑った。
「いいですね。彼女達が来るのも夕方だろうし、お供します。」










セフィーロに生まれた子供なら、時間がある時に水浴びに行かない子などいない。
綺麗な水に恵まれ、自然に守られ育つことのできるこの環境は後世まで残して行かなければならない。
それを肌で感じるかのように、大人になった今でも水浴びはひと時の娯楽だ。
常春のセフィーロでも暑い日はある。今日のように日差しが強いだけでなく気温も高い日にはどうしても水と戯れたくなる。


城の裏にある湖。小さいが水浴びには充分な大きさと水の洗練さ。ここを知っているものはセフィーロでも少ない。
言わばお気に入りの場所の一つだ。















水に体をつけながら、水分を含み重くなった髪をかき上げる。

「ウミは私の姿に抵抗があるらしいのです。王子、何か聞いていらっしゃいますか?」

「・・・導師、それはウミに直接お聞きになった方がいいと思いますよ。」
先週、クレフに対するウミの態度がおかしいことに気づかないものはいなかっただろう。
だが、理由など考えなくても見てれば分かる。

当事者になってしまうと見えないことも、第三者からしてみればパズルを解くよりも簡単なものだ。

ウミと関係を持ち始めてから、”あの導師クレフは恋愛においての免疫を全く持ち合わせていない。”
ということが毎度、露呈して、普段部下としてこき使われている者達から見れば全く可笑しいというか可愛らしいというか。
















先週、なぜウミの様子がおかしいのか、導師が全く気付かなかった中、ウミがフウに会いに俺の自室へ来た時のことが忘れられない。


「ちょっとぉ〜・・・・やめてよもう。」
独りごとの連発かと思える様子のウミは顔を真っ赤にしてフウのベットで崩れていた。

そしてフウは隣で全て分かっていたようで
「海さん、クレフさんとってもかっこ良くなられましたわね。」

「・・・かっこ良すぎよ。まともに顔も見れないじゃない。」
バツが悪そうにため息を吐きながら、クッションに顔を埋め何とか冷静さを取り戻そうと努力している。

「同性の俺が言うのもなんだが、確かに小さかったなんて思わせないほどかっこいいな。」

「フェリオ、悪いんだけど今夜風、借りていいかしら?こんなんじゃクレフと一緒に寝れないわ。」



”えぇ!?”
「・・・・・まぁ、フウが決めればいい。」
少しでもフウの良い答えを期待した俺がバカだった。

「海さん、もちろんお付き合いしますわw。」
そう軽快に笑って部屋を出て行ったのは先週。















さっきから相変わらず悩んでいる導師を横目にため息を一つ。



そのウミが今日長髪(挑発)導師を見たらどうなるか。


”今夜もフウと二人きりにはなれないかもな。”

















さぁそろそろ戻りましょうと服に手をかけ、輝き始めた北星にふっと微笑んだ。

きっと今夜も騒がしくなるだろう…と。



end....