アスパラサラダ さぁ未来に向かってアップマーシュ



「もう・・・またこんなところで。」

天気もまぁまぁな昼下がり、セフィーロ城で導師クレフがいないと皆が騒いでいるのを見かねて
精獣の森まで足を伸ばしてみれば、大きな木に身を預けて寝ている恋人にため息を一つ。

「セフィーロの導師、クレフさん?みんなが探してますよ。」 問いに答えは帰って来ず、代りに聞こえるのはまるで安心しきったかの様な寝顔と小さな息遣い。


クレフが夜遅くまで仕事をしているのはいつものことで、出来るなら目を空けて彼の帰りを部屋で待っていたいと思うのだけど
「ウミが寝やすいように。」って用意してくれた柔らかいベットに身を預けると勝利するのは10発7中ベットで私は負けモノ。
昨日も睡眠があまりに気持ち良すぎて、クレフが戻って来たのに全く気付かなかった。

そんな自分が悔しくて、毎回”今回こそは起きていよう…”と目を見開いていてもなぜだか自然の摂理には叶わない。
人間、夜ご飯を食べればどうしても眠たくなる生き物だ。







まるで寝息をたてているこの小さな体を何かから守っているように、寄り添い座っている精獣とは既に顔見知りだ。





「いつもごめんなさいね。」

グルグルッと鳴く精獣はとっても優しくて、最初は警戒心を露わにしてきたが、クレフの助けもあって
いつしか触っても嫌がられなくなった。

「私も隣に座ってもいい?」 グルッっと短い返事を是と受け取って白いフサフサした大きな体の横に座った。





「平和ね。」

クレフが子供のころからこの森に遊びに来ていた、と話してくれた時の笑顔はきっと私しか知らない。

本当に、幸せそうな顔してた。

クレフが育ったころのセフィーロの柱は自分よりも他人の幸せを心から願う人で、柱の生涯にわたって素晴らしい国だったらしい。

「だから将来は自分がそんな国、もとい柱の支えになりたかったのだが・・・。」

今でもエメロード姫を思い出すとき、この人は顔を俯かせる。

「幸せは人それぞれだ。姫の幸せを出来るならこの地で生きて叶えさせて差し上げたかった。」

「そう出来なかった分、生き残った者達に幸せになってもらえるなら私はどんな任務でも引き受けよう。」





一度破壊されかけたこの森も新しい柱に選ばれた光の願いで蘇った。

精獣もそのほとんどをクレフが城で保護してたこともあり被害は最小限で済んだのだ。

「本当に幸、せ…。」

それは間違いなくあなたが私にくれたもの。



















「ん・・・。寝てしまったか。」

グルグルッ。

じゃれ付く今は大きな体も昔は小さな小さな物だった。 「ははは、お前の毛並みは眠りを誘うな。」

グルグルッ。尻尾を遊ばせてクレフにじゃれる精獣は普段、人の前に姿を現すことはない。

人間とじゃれることがあるなど信じる人もいないかもしれない。

昔は毎日のように勉強道具を持っては精獣たちに会うためにこの森に足を運んだ。 そんな思い出を話してみれば、興味深そうに聞き入る彼女に笑った。 そういえばこんな話、誰かに話そうなんてそれまで思ったことがなかった。 「そろそろ行かねば。またウミに心配をかけてしまう。」

グルッグルッ(ウミガキテイル)。

「ん?ウミ?」



鼻で背中を突かれて、精獣を挟んで反対側で、寝息を立てている恋人のところへ誘導される。

「こんなところで寝て・・・。はは、似た者同士といったところか。」

手を触れた頬は少し冷たくて、私の体温に反応してか少し体を強張らせた。

昨晩、自室に戻ったときにベットの上で丸まっていた彼女は、自分が戻るまで起きているつもりだったのだろう

本を片手に、布団もかけないままの状態で、横たわっていた。

その流れる髪に手をかけて暫くその横顔を見ていたことを誰が知るだろう。

普段忙しいからこそ、そうやって彼女を見ている時間が持てるのならば睡眠も惜しくはない。

「クレフ、私ね・・・・」
1週間前にそう切り出したウミの顔が思い出される。


顔を赤くして、フウを隣に何か悪いことが起きたのではないかとそれは不安になった。










頬に指を手を唇まで伸ばして、もう片方の腕で華奢な体を引き寄せる。

「・・・んッ。」
首筋に右手をかけ、顔を向き合わせれば真っ赤になった顔と起きたばかりで潤む瞳。

「クレフ・・・。」














さて、どうしよう。

昨日できなかった分までじぇれてみようか。






せっかくだからこの森での思い出話の続きをしようか。







いずれにせよ、この時間をあともう少しだけ。