マダム・シャールトンの占い館

このご時世、人生を占いに頼る20代はいれないかもしれない。 だけど私の場合、自分で何かを決断して実行した結果上手くいった試しが一度たりともないのだ。
特に恋愛においては。



「おお、おおおおおおお!!見えます、私には見えます。マドンナの噴水の前にあなたの運命の男性が見えますよぉぉ。」
「マダム!本当ですか!?」

真っ暗な部屋で唯一輝く水晶玉を覗きこむ女性を、食い入るように見つめ放たれた歓喜の声。 この街で一番有名と称される恋愛占いの母、マダム・シャールトンの館を一年前に予約して、やっと訪れた今日という日を私は待ちわびていた。 この一年、占い無しで行動に出るのが怖すぎて、恋愛対象になりそうな男は同僚でさえも近寄らない、話すなんてもっての他!そんな生活をしてきた。しかし、それも今日で終わり!明日からマダム・シャールトンの占い通りに行動して、今度こそ運命の男性を見つけだすのだ、と脳が心に語りかける。そうさ、今度こそ。
友達はみな結婚していき、毎年のように独身女友達が減ってゆく。そんな結婚くらい、と思うかもしれないけれど、結婚した人間と独身人間は話のポイントも違うし、何かと波長が合わなくなってきたりするのだ。 一人身友達もあと3人になったところで私は決意した!今年こそ、一人身とはおさらばだ、と。

「あの、ラッキーアイテムは?」
「絆創膏です。シンプルなものが良いでしょう。」

「マダム、私とその人の相性は何パーセントくらいですか?」
「星達が言っています。あなたとその男性は強い何かで繋がっている。
そして理想の恋人同士に成り得る、と。しかし数字は語ります、それは僅か3割程度だと。」

「もう一つ忠告がありますの。」
ベールで目を隠し、テーブルの水晶に手をかざすマダムは唇を弓なりに、不気味に笑った。

「その男性は、あなたにとって悪魔とも成り得ます。お気をつけなさい。」


その次の日から、私のマドンナ噴水通いが始まった。
バックには常に大から小までの絆創膏を完備、仕事の日はどんなに残業が長引こうとも必ず噴水に寄って帰った。マドンナの噴水は街の中心にある。いつだれが作ったかもわからない大理性の彫刻の前に市が噴水設備を整えた。
他国のトレヴィアの泉に近しいマドンナの噴水も常に恋人や観光客でにぎわっている。

噴水通いも早1カ月。運命の人の影はまだ一度も見ていない。マダム・シャールトンの占いがはずれてしまったのだろうか。
いやいや、と首を振って自分に言い聞かせる。諦めるな!きっと現れるんだ、運命の人が。





「・・・というわけで、その子一ヶ月間噴水通いしてるの。だからなるべく早めに噴水行って、その子惚れさせてきて。これがあなたの仕事。」

かったるそうに軽蔑の視線を送ってくる男に蔓延の笑みで返す。今の彼に拒否権はない。
私の言うことは絶対なのだ。

「お前がこんな商売を始めていたとはな。」
「文句を言わないでさっさと行って来な。女の子の名前は、結構可愛いから気に入るよ。」
「その女言葉を止めろ、お前は野郎だろう。」
「知ってる?そうゆうのを差別って言うのよ、体は男、心は女だもの私。」

この世の中金を稼ぐのに蛇の道を行くのは常。綺麗事だけで儲け事が出来る人間なんてある意味気持ち悪い。
私も、自分が占い師として予言することは100発100中現実化してきた。 それは運命の歯車なんかじゃない、手回しというやつだ。

例えばの場合、彼女はどうやら恋愛という物事に対して免疫がないらしい。
自分を未熟と思うことで、行動に迷いが生まれ、何かするごとについて纏う失敗を理学的原因を突き止めることなく結果、
精神的に「自分はただついていない人間なのだ」と解釈している。
どこで運命の人と出会えるか、何をすればいいか、何を言えばいいか、ラッキーアイテムは何か、そんな隅から隅まで他人に頼る彼女を不憫に思ったのは確かだ。
彼女は近い内に、マドンナの噴水で私が差し向けたクロロ・ルシルフルに出会う。
クロロ・ルシルフルは念の使えない私のパシリ。私の仕事の手伝いをするのは古い友人を匿ってやるかわりの条件。

「あ、手に傷つけてから行ってね。」

彼女はクロロを見て一目ぼれするだろう。そして手の傷を見て絆創膏を差し出す。
マダム・シャールトンの言う運命の人はクロロだと確信し、私の占いは現実のものとなる。
そして成功報酬が彼女から振り込まれるという戦方だ。

「ああ、殺してくる。」

スーツを羽織り出て行こうとする男の後頭部に向かって水晶玉をクリティカルヒットさせた。
「あんたね、報酬が入るまで殺さないでよ!?それまでは彼氏のふりをするの、分かった?
報酬さえ入れば犯るでも殺すでも好きにしていいから。」

チッと、舌打ちをして出て行く男が薄暗い部屋から光りに消えていくのを送って、床に転がった水晶玉を拾いに立った。

「クロロがあの子を殺る可能性か・・・。」

それは皆無に等しい。
私がこんな商売を始めた理由、それは私の念能力に関係する。
予知能力、と簡単にまとめるのには無理があるが、対象者の肩に触れることでその人間の10年先までの未来がわかる。 クロロが私の元を訪れ再会の抱擁をしてやった時、クロロの未来に見えた女の姿。 その数日後、自分の店に同じ顔の女がやってきたのだから驚いたものだ。

にクロロを近づけたのは、彼女のためじゃない。

彼女から貰う報酬よりもクロロに払わせた方が金になると踏んだから。


クロロ・ルシルフルはあの子に惚れる。

将来あの2人が本当にくっ付くなら、恋のキューピットは今回彼女の彼氏探しを任されたこの私ということ。 そしたら報酬をクロロに数百万払わせて大儲け。

「上手くやってよね、ちゃん。」











「こんにちは、さん。」
「マダム・シャールトン、今日は相性占いをお願いしたいんです!」
「あら、お相手はこちらの殿方かしら。」

「はい!!!」

どうやら出会いは例の絆創膏で上手くいったらしい。 円満の笑みで隣にいる男の腕を組む女の子と目元を引きつらせる男を目の前に水晶玉に手をかざす。 胡散臭そうに頬肘をつく男に机の下で蹴りを入れてやった。

「見えますよ、あなた達の将来。」

後日、クロロに送りつけた請求書の額は相性占い10分、200万ジェニー。

いい商売だ、と新しい水晶玉の買い物へ街へ出た。 これからもクロロからの収入が入ることを計算して、予算より3倍高価な水晶玉を買ったことは言うまでもない。