PLUS A

彼氏とうまくやっているのかど同僚に聞かれると、答えに悩みだしたこの1年。 うまくやっているとはどの基準の話なのだろうか。『喧嘩していないか』と聞きたいのかそれとも『愛が覚めてないのか』と聞きたいのか。 後者だったら完璧に答えは『うまくいってない』と選択せざるを得ない。

「ドキドキしないんだよね、最近。」

チョコレートパフェを長いスプーンでグルグルにかき混ぜると綺麗な白のアイスと茶色のブラウニーの層が混ざり合ってグチャグチャをはしたない音を立てた。 夢中でかき混ぜている私に、クロロは白々しい視線を向け一言、「止めろ。」と放った。

「それでお前はその男とどうしたいんだ。」
アイスに交じって脂分が浮いてきた生クリームを掬って口に含む。甘過ぎない泡が口の中で溶けて消えた。そして舌に余韻を放つ。

「そうゆうのってさ、男の方がどうしようか考えるもんじゃない?きっと彼もドキドキする感情なんて既に持ってないんだから。」
「人任せは相変わらずだな。」
「女の子はね、いつだってお姫様でいたい生き物なの。王子様が出て行くなら待っているのもロマン。 その彼が帰って来て、どんなドキドキをくれるんだろうって夢をみているものなの。」



そう、昔はそりゃぁドキドキしたものだ。 携帯電話の番号を交換して、いつ最初の連絡が来るか三日三晩ドキドキした。 初めてのデートに誘われて、洋服やメイクはどうしようか、会える彼を思うだけで頬が火照った。 たまに会えるだけでもいい、今彼は何をしているんだろうって思うだけで幸せだった。

それが今日、そんなこともそういえばあったな、くらいの思い出としてしか残っていない。




「関係の終わりを悟るのって、こんなに殺伐としてるもんなんだね。」

液体なのか固形なのか分からなくなったパフェをまたかき混ぜ始めれば、 クロロは目を伏せて、またもう一度開く。 その眼差しは、昔も今も変わっていないのにこの感情の変化はつまり、私が大人になってしまったということなのだろうか。人の目から視線を逸らさないのはこの人の癖だ。

「悪かったな。」
「残念。私が待っていたプリンスはお出かけ中に新しい恋人を見つけ、今はその女性にぞっこん。」
「否定はしない。」
「団長が入れこみ過ぎないか心配だ。」
そうシャルナークがぼやいていた。 旅団員にすら見てとれるほどに、この男が「一人」を愛することのできる人間だと思っていなかった。

「今回は、私の見る目がなかったってことにしとくわ。慰謝料だけ振り込みよろしく。」


「そういえばちゃん、だっけ。その子の名前。」
刹那、前方から飛んでくる殺気に両手をあげて降参のポーズ、片唇を吊りあげた。

「安心してよ、彼女に手は出さない。」
殺気をしまったクロロ。シャルナークが言っていたことが嘘ではないと今証明された。 ただの遊び女のために本気で殺気を出すような男じゃない。

「大切にしてあげてね、私の分まで。」
そう残してクロロより先にスイーツバーを後にした。

昨日まであった「ドキドキを失った恋心」は私に別れを切り出す勇気をくれた。もう好きでもない相手に「サヨナラ」を言うのは辛くないことだと教えてくれた。 だけど今、「ドキドキを失った恋心」が泣きはじめてしまった。彼を愛していた記憶を忘れられない感情が頭の中で悲鳴をあげてる。

「冗談じゃないわよ。」

道に転がる石ころを蹴り飛ばしながら、アスファルトに視線を向ける瞳。
その両脇から流れる涙を隠しながらフラフラと街を行く。
段ボールに詰めてあったあいつの本を明日、朝市でゴミに出しに行こう。

この街唯一の電話ボックスに入って、脳にインプットされている番号に電話をかけた。

「イルミ、私。例のクロロ半殺しの依頼、実行よろしくね。」










「手は出さないっていっただろ。」
「あら、私は『彼女には手を出さない』って言ったのよ。あんたに復讐しないなんて一言も言ってない。 ちなみに支払いはクロロ持ちで清算してるからゾルディックの口座に8000万、よろしくね。」
「お前・・・。」
「あと、仕事の用以外では二度と掛けてこないで。じゃぁね、『団長』。」

一方的に切った電話。どうせいつかは嫌でもまた会うことになるのだ。 私が旅団員である限り。 クロロから振り込まれた慰謝料は、傷心を癒やすために全部使ってやろう。 今日は飲み会、こんな時じゃないと言えない上司の愚痴をパクとマチと放ちまくってやるんだから!

スッキリした恋心は次のドキドキの相手が見つかるまでしばらくお休み。 ウサも晴らして爽快元気満タンな気分に、星を見上げた。
ちゃんのドキドキが長持ちしますように。」
顔も知らない彼女の幸せを祈った。 そして、あの男が本命の子と幸せになれますように、とついでに祈ったことは一生誰にも言わない。




そして、この夜酔いつぶれた私を迎えに来てくれた人物と、まさか数日後早速恋に落ちるのは
このときの私がまだ知らない未来の物語。