Candle candle

外国でよく売っているような、火をともすと独特な薫を放つ蝋燭をもらった。

淡く部屋を灯し暖めてくれる蝋燭は好き。特に冬はあのユラユラが自分にとって風物詩になっている。

仕事帰りにそんな話をしたのは先週。そして今日、真剣な面持ちで蝋燭を手渡された、愛の告白というおまけつきで。

いつものように丁重に断って、蝋燭を返そうとしたけれど「あげたものだから」という理由で受け取ってもらえず持ち帰ってきた。

諦める代わりに自分もその蝋燭の匂いがしりたいから、と家招くことを半場強制で約束させられた。
男ってよくわからない。



貰った蝋燭は綺麗なオレンジに薄いピンクを混ぜたぐるぐるキャンディーのような色で
子供だったら間違えて口に入れてしまうのではないかと思うくらい甘ったるい薫がした。

実際に火をともしてみるとその薫は余計濃くなって、外に出ていてもその匂いを思い出す、まるで麻薬の様だった。






良い香りなのに落ち着かない。

何か変な感じ・・・





「疲れた時にリラックスできる香り、ねぇ。」

ここ3日使った貰いモノのパッケージ裏に書かれた蝋燭の説明を読み上げてすぐに灯りを消した。




























この部屋も使い始めればなかなか悪くない。

狭いし、間に合わせだったからとくに何も考えずに契約した私のお城。

ベットは一人用だし、以前みたいに部屋に本は多くないけれどこじんまりとしてていい。

何より表の仕事場へのアクセスが最高。

今まで1時間かけていたのがバカみたい。













pipipipipi......

「はい。」
ここしばらく鳴ることのなかった携帯の電池残量は残りわずか…危なかった。

か、どうだそっちの仕事は。」

「ぼちぼちやってます。」

「来週末は空けておけ。仕事だ。」

相変わらずの命令口調、こっちがどれだけ忙しいか知らない癖に。

「参加は私の自由でしょ?空けておくけど行かなくても文句なしよ。」

それだけ言って電話を切った。





絶対忘れてる。
大体、本と哲学以外に興味を示さないあの男が私のことを一々気にかけるはずがないか。

最後にあったのは一カ月前、泊まりの予定がなくなって帰ったアジトの部屋から聞こえる女の悲鳴にも似た甘い声。

「最低だとは思ってたけど、まさか私と一緒に使ってるベッドで他の女とやるなんてね。」

今思えばみっともなかった。私はあいつにそこまで依存してないのに。口から出た言葉は嫉妬そのもの。



「誤解だ。」

扉を開ける前に引き返そうとしたとき気配で私だと気付いたのか当の本人が出てきた。

腕を掴まれて振り向かせられた、その相手の姿はまるで説得力無し。

ほぼ全裸の状態で出てきてなにが誤解?



「離してよ。」

それが最後。

そして今日電話してきたあいつはまるで何事もなかったかのような様子で余計腹が立つ。

























「あっじゃん!久しぶり。」
携帯をいじっていたシャルの声を聞いてパクとマチが下りてきた。

「はいこれ、お土産。」

朝焼いたケーキを手渡した。今日はパクノダの大好きなダークチョコレートのケーキ。

チョコレ―トもパクのお気に入りのブランドのものを使った。


「最近ケーキ焼いてくれる誰かさんがいないからみんな寂しがってるわ。」

そろそろ帰ってこない?と肩に手を置くパクノダは優しい。

確かに、一人で住むのに不便なことはないけど唯一欠けているのは団員と呑んだり、買い物に行ったりするあの騒がしさ。

あの男さえいなければ、と眉間にしわを寄せ考えた。

、あんたなんか・・・。」
考え込む私にマチが何か言おうとした瞬間、後方から聴こえた声に体の底で何かが響く感じがした。



「−が来たか。」

髪をオールバックにした青年が一歩一歩近づいてくる。

カツカツという音が近くなる度に後ずさりしてしまいそうになる私は弱い。




「団長・・・久しぶりです。」

あぁ、と向けられた目は怖いもの知らず。

その目だけで自分の全てを探られている感覚に陥る。

体が熱い。おそらく今、自分は汗をかいているだろう。






「ねぇ、。」
返事をしない私にマチが

!!!」

強く呼んだ名前は私を冷静に導いた。




「あ…ごめんマチ。何?」

「さっきから言おうと思ってたんだけど、あんたなんかすごい甘ったるい薫するね。」

ーえ?

「本当?香水なんて付けてないよ。」

「確かにするわね、なにかしら。」

パクノダまでもが同意すってことはどうやら本当に匂うらしい。

そしてもうひとつ伸ばされた手がひと房の髪を取りキスをするかのように、薫を確かめた。



クロロ・・・



なんで。

こんなに憎たらしいのに、ときめくのよ自分!



私の髪の匂いに覚えがあるのかクロロが眉間にしわを作った。

「あれ・・・。団長、この匂いってまさか。」

どうやらシャルも知っている香りらしい。

「間違いないな。」

その表情は少し曇っている。

さ、最近蝋燭買ったり…(ってことはないか)、貰ったりしなかった?」

ロウソク? 「・・・ええ、同僚に貰ったけど。」


「マチ、その蝋燭取ってきてくれないか、輸送中は匂いが移らないように念でガードしておけ。」

「おっけー。」

私も一緒に行くわ、と出て行くパクノダとマチが向かったのは私の家。

「・・・なんで私の家の場所知ってるのよ。」

教えたこともなければ、遊びにきたこともないのに。


「団長がのこと野放しにするわけないじゃん、一番危なっかしいのに。
新居の場所も契約した当日に突き止めたよ。」

ため息がでる。相変わらずの過保護さに。


「シャルそんなこと言わなくていい。それよりその仕事、明日以降辞めろ。団長命令だ。」

「はぁ?職権乱用ですよソレ。」

「じゃぁお前の男として言う、辞めてくれ。」

「余計意味が分からないんだけど。」

蜘蛛の仕事を優先させるために辞めろと言うならまだしも、プライベートで辞めろってどうゆうこと?

それに自分の女の前で他の女抱くような男、こっちから願い下げだってば。

、その蝋燭は媚薬だよ。」

シャルがパソコンを起動させながらしゃあしゃあと放った聞きなれない言葉。





媚薬?

が出て行った夜、俺と団長一緒に外で呑んでたんだ。
そしたらパブで女に誘われてしばらく飲んでたんだけど、俺気分悪くて途中で帰って。
その後、団長がその女アジトに連れて帰って来てさ。焦ったよ、まさか団長が以外の女を自分の部屋に入れるなんてありえないだろ?」

やれやれと言うようにシャルがパソコンの前で手振りをした。 「でコレは何かあると思って調べたら、あの女が店で灯してたのがその蝋燭。

かなりキツイ媚薬で、依存性も高い。団長、酒呑んでたせいもあって上手く網に引っかかったわけ、馬鹿だよね〜。

それにダブルパンチ、俺が団長の部屋に行くのとすれ違いにが一部始終を聞いて怒っちゃったわけ。

団長の部屋の扉開けたらもうその女、団長に殺されてたから何もなかったと思うよ。」


「でしょ?」と確認するようにシャルの目がクロロに返答を求めた。

「途中で気付いたからな。」

「も〜その時の団長ったら媚薬のせいで色っぽくてさぁ!」

爆笑するシャルににらみを利かせたクロロは真面目だった。






「コホン、ちなみに媚薬の効果はこの通り。」

左クリックでパソコンに表示されたプラウザが写す行為。

この薬のせいで終わることのない女の悲鳴と男の息遣い。



「それ贈ったってことは、の同僚もこれ狙いだろうね。」

あんなにやさしく笑う男性なのに、心の奥では何を考えているのか分からないな。

「・・・・・やめようかな仕事。でも襲われてたとしても途中で殺してよ。」

「どうかな、お前じゃ流されてたよ。」

腕を組んで不機嫌そうな私を抱き寄せて耳もとでささやかれてクラクラする。

触れたい、と思う自分は矛盾していて、なんだか悔しくて体が疼く。


「分からないじゃない。私だって薬品への抵抗はあるもの」

「まだ気付いてないか。」

「何をよ?」












『 ラ・マガルド 』

媚薬の中でも依存性が高く一度吸い込むと少なくても3週間は媚薬効果が続く。

媚薬の王様という別名を持つ。

俺がを迎えに行けなかった理由。

会ったら壊すまで犯してしまうと思ったから。







気付いてないか、まだ自分の体に媚薬の効果が残っていること。

感度も最高、なんならその蝋燭の貰いモノ

今夜二人のために使わせていただこう。









END