Laura's Sister

スーツのポケットに入れっぱなしにしていた仕事用の携帯を開くと3件の着信が入っていた。

0時49分 シャルナーク
0時55分 シャルナーク
3時21分 

ずいぶんと珍しい人間から着信があったらしい。 仕事もないしシャルからの着信はどうせつまらない内容だろうと放置を決めて3つ目の発信相手にコールした。 何年ぶりだろうか。ソファに身を投げる、13コール目にやっと出た人物の声はまるであの頃と変わっていなかった。

「もしもし。」
「モシモシ、久しぶりですクロロさん。」
「ああ、履歴を見て驚いたよ。噂は聞いてる、立派になったらしいな。」
「はは、何とか生活できてます。昨日偶然シャルと会ってね。」

それでシャルナークから着信があったのか。昨晩出れなかったことを少し後悔した、出ていればシャルという仲介を通して久しぶりにの顔が見れたかもしれない。
「相談なんですが、来月の18日空いてます?」
「特に計画していることはない。」

「実はゾルディックに命狙われてるんですよ。」

ヒョウヒョウと物騒なことを語るに噴出した。相変わらず危機感のない女だ。

「ボディーガードやってくれません?」
「お前、蜘蛛を雇うなんて出来ると思ってるのか?」
「いや、全く。だから蜘蛛にじゃなくクロロさんにお願いしたい、個人的に。」
じゃなきゃ私から本人にかけるなんてありえないでしょ、と付け足されそれもそうかと納得した。 今やヨークシンで1、2位を争うマフィアのボスが自分でボディーガードを雇う手配をするわけがない。

「先日用があってゾルディックに行ったんです。その時シルバさんに殺害依頼が入ってると言われまして。いや参った参った。」

おかしいな、と一度首をグルリと回した。あの一家は家の次女を溺愛してるはず。
依頼だからといってそう簡単に受けるものか?


「ローラはどうなんだ。自分の姉に護衛を頼んだ方が楽なんじゃないか?」
「いや、それ無理。」
速球の返答に、眉を寄せた。

「・・・イルミが来るのか。」
「はい、おそらく。」

なるほど、ローラとイルミの関係図は最悪だからな。

『私の可愛い妹、がいつかあの無感情男にだまされる日が来る!』
『長髪キモ男。』
『妹に相応しくない男ナンバー1!』

これらはローラが毎回のように口にするイルミの愚痴だ。交際3年、未だあいつのシスコンにはついていけない。

耳に当てていた携帯を離してスピーカーモードにすると、丁度良くバスルームのドアが開かれた。
「ならボディーガードなんて必要ない、イルミはお前を殺さないだろう。」
「どうかな、仕事に対しては一族の中でも一番真面目な人間ですから殺されない保証はないですよ。 現にシルバさんが断った私の殺害をイルミが受けたと聞いています。」

軽い溜息を吐いたの心境を察するに、いつもは楽観的な彼女が今回はいささか戸惑っているようだ。
「正直、イルミに来られたら、私反撃できませんから。」
小さな声で自信なさげに吐き出されたの言葉にバスルームから出てきたガシガシとバスタオルで髪を乾かす人物の動作が止まる。 視線はスピーカーモードの携帯に注がれている。

「力量ではなく感情が、だろ。」
「え?」
「反撃しないのは出来ないではなくて、したくないだけだろう。そして姉をボディーガードにしたくないのはローラがイルミを殺す可能性があるからか。」
「・・・さすが痛いなぁクロロ。そこら辺の感情もてあましてましてるんです最近。」

心理医にでもなったらどうですか、と何度言われたか分からない。 自分の感情は別として、他の人間が何を考えているのか読むのは昔から得意だった。


「イルミのことだ、何かしらの策があってお前の殺害依頼を受けたんだろう。その気なんて全くないさ。」
「何で分かるんですか?」
チラリ、とダイニングキッチンの方に目をやり確認をとって続けた。

「本人が頷いてるからな。」

「は?・・・もしかしてイルミ、今クロロの処にいるんですか?」
「ああ。」
「この策士が。」
「怒るな、18日引き受けてやる。特に戦闘になりそうもないし暇つぶしだ。会うのも久しぶりだろう。」

「5年ぶりかな。」

本当に随分久しぶりですね、と笑う女の顔は俺の中で全く変わっていない5年前のあの顔。来月今のの顔を拝むのが柄にもなく楽しみだ。

「クロロ、イルミにお願いします殺さないで下さいって、伝えてくれます?」
「・・・だそうだ。」


それを聞いた本人はふっと軽く笑って近づいてくる。この能面の表情を変えられる女は貴重だな、とイルミが入れたコーヒーを受け取った。

との付き合いは俺の方が長いが、関係は俺より近しいものを築いているだけある。本人達は特に自覚もしてないようだが。
ふいに「ボスお時間です」と背後から低い声が聞こえた。あのヒヨッコがボスとは時間が過ぎるのは早いものだ。

「ああ、了解。それじゃクロロ18日に。」
そのまま切られると思った電話の主は置こうとしたであろう受話器を再び持ち上げて言った。

「クロロとイルミがそうゆう関係だとは知りませんでした。姉には告げ口しませんからご安心を。」

ガチャ。ツー、ツー。




「・・・。」

「・・・。」

刹那、まるで信じられないようなものを見るイルミの視線を背後から感じた。なぜ俺を見るんだ。 何かを察したらしいイルミは持っていたコーヒーカップをシンクに置き、靴を履いてドアノブに手をかけた。

「誤解してるみたいだから、会いに行かなきゃ。」
「ああ、よろしく伝えてくれ。」

そしてあいつの激しい勘違いを解いてきてくれ…。

「クロロ、分かってると思うけど、18日に手出したら戦闘に持ち込むから。」

そこんとこよろしくね、と長い髪を靡かせて出て行く男。 こいつに言われる前にローラにバレることを考えたら想像すらしたくないな、と施錠してまたベットにもぐりこんだ。















2日後

「これって。」
イルミがバスルームに残していった鋲。まるで汚れ物をかざす様に摘み上げて、ローラ・にこれでもかという程白々しい目で見られた。 ワナワナ、と震える腕。瞬間、投げられたその鋲は部屋の壁を貫通して隣人宅へ。

「自分の恋人が、天敵と寝ていることを知った女の心境。」
> 「・・・。」


誤解を解くのに時間がかかりそうだ。













END