BLACK CAR SERIES

ゆっくりゆっくり過ぎていく街のネオン、そとの音が全く何も聞こえない静けさ。
隣でハンドルを握る男の息遣いが数センチの距離に感じる密室。
大きなフロントガラスには残念なことに素晴らしい夜景は映っていない。

視界に入るのはなんとも悲しいことにトラックの背面。

渋滞にはまったのだ。



ちらりと後ろを振り返れば何処までも続く車の行列。
ハイウェイがこれでは一般道はどれだけ込んでいるのだろう、想像もつかない。
皮のシートに体を預け、はしたなくも足をフロントボードに乗せため息を吐いた。


「どうゆうつもりよ、イルミ。」
ハンドルを握る男は窓を開けて湿った暖かい南国の夜風を車内に迎えた。

「どうゆうつもりって、を旅団から誘拐中。」

自分が何をしているのか分かっていないわけではない、と心から願いたい。

「この渋滞じゃ、あっちの脚の方が速いと思うけど。」

あいつに気付かれたら見つかるのは時間の問題だ。
最も、まだ私がいなくなったということに気付いていない方に80%をかけるが。
今頃他の女との行為に夢中だろう。私がすでに出ていることなんて気付いてないはず。



あの男のドSぶりは天下一品だ。私が惚れたのをいいことに、わざわざ私の自室の隣で他の女と遊び、精神的苦痛を強いる。
別れると言う度に慰められ、お前だけだと言われ逃げ出せなかったのは自分の心が弱いから。

認めたくないがあの男無しでは生きていけない、と今も心のどこかで思っている。

今日もそう、女をクロロが熱い口付けを交わしあの部屋に入っていったのを見てベットに体を埋めた。
耳栓なんて今さらしたって意味がない、なまなましい声はすでに耳鳴りとして四六時中私にダメージを与えているのだから。





今日も一晩中あのあえぎ声が続くんだろうと、ベットで泣いている時感じたイルミのオーラ、一瞬の出来事で何が何だか分からないうちに私はクロロの車に乗せられていた。
「逃げないの?」

イルミの質問に助手席で自嘲した。
ずっと逃げ出したかった、けれど出来なかった。イルミが与えてくれたチャンスを無駄にはしない。
いつもはクロロが座る席に今日座っているのはイルミ。同じ車なのに、運転手が違うだけでこんなにも居心地が変わるなんてまるで魔法だ。

やっと動き出したハイウェイを降りて一般道へ。
その道を海沿いに抜けるころ帰宅ラッシュは峠を越えているだろう。



「イルミ、ありがとう。」

何?とハンドルを握り前だけを見るイルミの頬に口付けをした。
シートベルトを外してイルミに詰め寄る形で運転手側のサイドポケットに腕を伸ばす。
取り出したのは小さなボタン、いつかシャルナークガつけたGPS。

それを窓から外に頬リ投げた。








「攫ってくれる?」

「そのつもり。」