ALONE & TURN ALONE & TURN

。」

久しぶりの長い休暇を利用して街中を歩いてみれば何とまぁ、全く予想をしていなかった人物と鉢合わせた。 しかもその隣には飛び切りの美人が誰この人と言わんばかりに私のことをジロジロと見てくる。 なんで休みの日までこの人の顔を見なければならないの、と信じてもいない神様に全力で叫びたかった。 そのそもこの人物は一体なんでここにいるのだろう。今住んでいるのはパドキア共和国だと思ってたのに。
ここはペンシュレベニナ、かの有名なヨークシンシティの隣町だ。
別にこれといった観光名所があるわけでもないこの小さな街に、この男がいる理由は大方仕事か、この美人さん関係だろうと勝手に推測してみた。


「イルミ・・・さん、久しぶり。」

イルミと呼ぼうとしたとき明らかに彼女から「なに呼びつけにしてんのよ」オーラが発せられた気がして語尾をつけてしまった。 彼女の視線は何だかすごく居心地が良くない。突き放したい衝動を掻き立てられる。 手を上げれば彼女を殺すことは簡単だけど、その次には自分がイルミに殺されると悟ってさよなら、とだけ残してイルミ達が来た方向へ足を進めた。


イルミとの関係はかれこれもう6年。
暗殺依頼者が一人の殺し屋を信用せずにもう一人別に雇ってたりすると、暗殺者同士が鉢合わせすることは良くあることで、 イルミに初めて会ったのも仕事現場。あれは月が綺麗な夜だった。

返り血を浴びたのは私。
イルミが殺そうとしていた相手を奪い取った。もちろん報酬も私のもの。

「ごめんなさいね、でも私も雇われてるの。」
そう告げ、彼とまともに向き合った時、女か男か分からない容姿に少し戸惑った。 返り血に身を包んだ私に恨み言を言うどころか 「綺麗だね。」って男の声。その言葉から私達の関係は始まった。

あそらくあのころは私のほうがいささか強かっただろう。
でもついこの間までハンター家業に重点を置いていた今はきっとイルミのほうが強いに違いない。

それにしてもイルミってああゆう女性がタイプだったんだ。 意外だ。あの男にあの派手な美人さん。 私とは正反対すぎて、あらためて私はイルミにとって恋愛対象になっていなかったのだと認めた。寡黙、何を考えてるか分からない彼と感情を簡単に表に出すあの彼女。ある意味凸凹カップルだよね、って話にしてやろうとヒソカにメールを送信した。










イルミ達と分かれた後、あと一つ袋が増えたら即日郵送サービスを使わなければならないほどの買い物をした。 家具や日常雑貨の重いものは、とりあえず明日到着するように手配して、とりあえず服やらアクせりーやら本日の収穫を持てる物だけ持って帰ってきた。 それ以外にこの高層マンションの一室にはまだ何もない。

それもそう、引っ越してきたばかりなのだ。 ハンターとして発掘作業に時間を費やした3年間は、発掘現場近くの家具付小屋借りて生活していた。 親からそろそろ暗殺家業の手伝いに戻れと言われて嫌々、発掘現場を後にし新しい拠点に選んだのがこの街。実家からは500キロ離れているし、あんまり会いたくない両親と兄弟からは離れて暮らすにはちょうどいい距離だ。



有意義な一日だった。イルミに会ったことを除いては。 とりあえず荷物をフロアにおいて風呂場へ直行する。 甘ったるいバスオイルを入れて天窓をあけて暗くなり始めている空を見上げた。 此処、新居でのお風呂は二回目。無駄に広い部屋だけどこの風呂場だけは気に入っている。

もうあれから3年か…
あんまり考えないようにしていたことを脳が思い出している。 まだこの街にいるのかな。パドキアに帰ったって聞いてたのに。
3年前、発掘現場に住居を移す前、私はこの街でイルミと暮らしてた。 恋人同士だったっていえるのかは分からないけど、既成事実はあった。
少なくても私はイルミが好きだった。イルミが私に特別な感情を抱いていたのかは今でも謎だが。
神経質で潔癖症なところが共通点で、住んでて嫌な印象を受けたことは無かった。 血の匂いを部屋に残すのが嫌で、仕事帰りは即お風呂という約束をしてた。 私が今でも外出先から戻ったときそくお風呂をためるのはあの頃からの癖だ。
一緒に住んでた家にはまだ私のお気に入りの家具がある。服も、本も。でも引き取りに行こうとは思わなかった。 一方的に離れた男に頭を下げて部屋のドアを開けてくださいってお願いするくらいだったら、それに似た新しい家具を調達したほうがマシだ。

それに全部捨てられているだろう。行っても意味が無い確立90%強。


私が暗殺家業をいったん中断させてハンターの仕事をし始めたのは、私の存在を知らないイルミの母親が部屋にお見合い写真の数々を置きにやってきたことが発端。 お風呂上りにそれを発見して、そうかイルミは長男だったんだ、っていつか両親決めた女性と結婚するんだって思ったら、 きっとこの先辛くなるのは私だな、って一人で納得したから。 即家を出た。

自分でもサバサバしてると思う。 なんたって別れの言葉が「落せなくて残念だわ」だったのだから。 荷物をまとめる私を見る視線を感じたけれど、イルミは何も言わなかった。







久しぶりに会ったのにまともに会話もしなかった後悔か。昔の感傷に浸りたいだけなのか。 いまさら自分の未来に彼を求めてるわけじゃないだろうに。
お湯を注ぎ足そうとしたとき、ヒソカからメールが届いた。

『イルミに彼女が?そんなわけなじゃないか★君いつ帰って来ても良いように今でも君達が住んでいたあのバカ高い家賃を払い続けているイルミが新しい女だなんて♪』

のぼせたのだろうか。頭がうまく働かない。 お風呂から出て簡易ソファに身を預けてもなんでだろう、なにかおかしい。何かに憧れていたあのころ良く持っていたこのむずむずした気持ち。


ふいに携帯をとり、いつか登録削除を押した彼の電話番号を人差し指で叩いている。
まだ覚えてるんだ・・・、と自分の記憶力を見直した。耳元で鳴る呼音、私はイルミに何を言いたいのだろうか。 何を聞きたいのだろう。何?って聞かれて答えられないのは明白に分かってるのに。

2コール鳴ったところで通話終了のボタンを押してしまった。あ…やちゃった、と思ってももう遅い。履歴はバッチリ残ってしまっている。

「何の用?」って聞かれたらせっかくだから3年前に言わなかった気持ちでも伝えてみようか。


着信履歴を見て、彼がどんな反応をするんだろうと考えながら携帯をポケットに夜の街へ繰り出した。