Piece of Days

新しい仕事が始まり3ヶ月、ようやく会社と新しい同僚にも慣れ、失業中家でゴロゴロしていた時間が懐かしく感じ始めた。
勤務先は隣街で、毎日電車で1時間の通勤時間を要する。


毎朝5時半、私の目覚まし時計が鳴る、それを消すのはクロロだ。

、起きろ。」

ちょっとやそっとのことでは起きない私の鼻を親指と人差し指で摘んで、引っ張る。
これはクロロが見つけた私を起こすのに最も効果的な方法なのだという。
もっと優しく引っ張ってくれてもいいのに、朝からクロロは私に容赦ない。

「…おはようクロロ。」
その言葉を聞くと、クロロは私に背を向けて「おやすみ。」ともう一度目を閉じる、私達の日課だ。
クロロが家にいない日は、目覚ましを4台セットするそれでも起きれない日があるのだから、毎度私を一発で起こすこの鼻つまみ目ざましはなかなか優秀なのだ。



ムクムクと上半身を起こして窓の外に目をやるが、外は真っ暗で太陽の存在を感じさせない。

この国の冬の暗闇は長くて、重い。

今日は太陽は活躍しない天気になりそうだ、と昨日天気予報のキャスターが言っていたのを思い出した。











日課の朝シャワーで目を覚まして身支度を整える。どんなに時間に余裕がなくてもモーニングコーヒーは忘れない。熱いコーヒーの入ったカップを持ってソファに座りゆっくりできるこの朝の10分が、私の一日の原動力。

「さて、今日も頑張りますか。」
カップをシンクの中に置き去りにして、パンプスに足を通す。


働かざるもの食うべからず、毎日毎日せっせと稼ぎに出かける自分を私は偉いと思ってる。



「もう行くのか。」
ドアノブに手をかけた瞬間に目をこすりながら起きてきたクロロ。
回答の代わりに彼の頬にバイバイのキスをして家を出た。











私はコツコツ派なのだ。






一晩の仕事で何千万の収穫を持ってくるクロロの仕事スタイルは異常で(はたまたその仕事の内容はスタイル異常に非常識で)、
そりゃあそんな稼ぎ方に憧れを覚えないかと聞かれれば嘘になるけれど、それはクロロだからできることで、
私には向いていないのだと、私はまともに働くのが合っているのだと、自分の平凡な人生を精一杯美化しようとしている。





「はい、会議お疲れ様。」
朝一の会議が終わって、先輩に差し入れられたコーヒーに口をつける。それはとてもとてもほろ苦い味がした。

「…いいよね。私は平凡でも。」

クロロは平凡じゃないから、彼に合わせたいなんて背伸びしたら、きっと自分の何かが変わってしまう。

だから私は一生私でいるのだ。


ちゃん、何か言った?」

「いえ、何でもありません。」




「天気予報の嘘つき。」

オフィスの窓から見える太陽の光が差した空に目を細めて、一度大きく背伸びした。














END