離れていてもずっと繋がってる、って。
会えなくても想いあっている、って。
連絡なくてもきっと無事だ、と私が一人で乗り切れたのは3年だった。
夕方、公園のベンチに座って本を読むのが日課だった頃、出会ったのがクロロだった。
出会い一日目、私が読む本に興味があったのか話しかけられた。
その一週間後、私が公園へ行くと彼が私の特等席に座っていた。本人が言うには"待っていた。"
一ヵ月後、毎日のように一緒に本を読むことになっていた。
半年後、付き合うことになった。
7ヵ月後、一緒に住むようになった。
一年後、クロロがあのA級首「蜘蛛」の団長だと聞かされた。
1年と4ヵ月後、クロロが出て行った。
1年と11ヵ月後、半年ぶりに帰ってきた。
2年後、また出て行った。
この家で彼と同じ空気を吸っていたころ、今まで親元で暮らしていた私にとって全てが新しかった。
一緒に家具を選んで、食器を買って、料理をして、一緒にベットに入って、朝の日差しに起こされる。
「・・・、俺が怖くないのか。」
最後の朝、クロロが私に聞いた言葉に返事はない。
私は眠っている振りをしていたから。
そして彼は静かに立ち上がり、私にしばらく帰れないと書置きを残して出て行った。
出て行ってからも、毎日のようにメールをくれた。週に一回は電話もくれる。
でもね、文だけじゃ、声だけじゃクロロの暖かさは感じられないんだよ。
出て行ったのは大方仕事のためだと思う。
私を嫌いになったならわざわざメールや電話をくれるはずがない。
だから、大丈夫って思ってきたけど、私は昨日見てしまった。
隣町でクロロが女性と腕を組んで歩いているところ。
クロロとの付き合いが始まって5年、会わなくなって3年。
3年も女無しでいられる男はそうそういないだろうから、あの女性とは体の付き合いなのかもしれない。
でも、そんなことはどうでもいいんだ。
その現場を見て、3年会っていない恋人に駆け寄れなかった自分が情けなくて、待っていることに疲れてしまった自分が可哀相で。
もう終わりにしよう。
そう決めた。
今までずっと受身だった自分が、初めて自分から出すメール。
もう限界とか、あえなくて辛いとか、少しでもクロロのせいにしないようにこうゆうのは簡潔なのがベスト。
あなたを愛させてくれてありがとう。
さようなら。
昏々と雪が降り続ける大陸のどこかで23時31分に送信されたこのメールを見た彼は何を思うのだろう。
きっと近々、彼はこの部屋を訪れる。
こんどは私から書置きのみが残された2人の部屋に。
クロロ、昨日は突然のメールごめんなさい。
一つだけ、伝えたいことがあったの。なんで私を殺さなかったの?
殺せばすぐに目的の物が手に入れられたのに、あなたは私を殺さなかった。
私が自室にある時価数億の指輪をもつことを知っていたのでしょう?
私たちが出会うずっと前から。
ここに置いていくよ。
あなたにとって価値有るこの指輪。
価値のない邪魔者は消えるね。
ただね、もし、もう一度出会うことができたら蜘蛛じゃなくて、またクロロって呼んでいいかな?
「・・・あたりまえだろ。」
メールを読んだのは受信の一時間後、間に合ってくれと願ったがそれは叶わず、
テーブルには置手紙と指輪だけが残されていた。
欲しかったのは指輪よりも彼女。
彼女に指輪以上の価値を見出した結果がこれだ。
経歴に水を差された。今まで手に入れられなかったものなどなかったというのに。
置かれた指輪を彼女の机に戻して、彼女の残り香がする枕に頭を静めた。
はたして2人の人生がクロスする日はもう一度来るのだろうか。
途方もない脱力感に寝返れば、彼女の残像が思考回路を支配した。