BLACK MARIA

「で、約束取り付けたの?」

アジトのソファで目を真っ赤にしてうな垂れている彼女の姿を見れば聞かずとも返ってくる返事は予想できるだろうに

それをわざわざ聞くのだから腹立たしい、と真っ赤な目はまた涙を溜めた。



彼女の横に座り震える背中を撫でる。恋愛ごとになるとここまで心身ともに弱くなる旅団員はこの以外にいない。

この女が旅団に入ったのは1年前、理由は団長だろう。惚れたか、惚れさせられたか検討はつかないけど、彼女の積極性はハンパない。

無理やりキスしようとしたり、団長のスーツに自分の香水を吹きかけマーキングしたり、クロロに怒られても懲りずにやってるんだからある意味賞賛モノだ。

会話といえば四六時中クロロの話ばかり、団長の話をしている時の笑顔といったら可愛くて仕方ないんだけど。



悔しいな、この笑顔が団長だけのものなんてさ。そう何度心の中で呟いたか分からない。

だから意地悪をした。に団長をバレンタインに誘ってみなよ、って提案したのは俺。

「団長毎年すごい数のプレゼント女達から貰ってるけど本命からは何もないみたい。、チャンスかもよ。」そう唆した。

もちろん断られて帰ってくるのは計算済みで。嘘はついてない、実際団長はバレンタイン、毎年彼女から何も貰ってないみたいだし。


そうやって正当化しようとしてるんだ、自分を。

「あんな団長でも本気で好きな女がいるんだろうね。」


それが誰だか知っているなんてには言えない。マチが仲良いパティシエ、確かにあの女とクロロの繋がりは強い。


が割って入れる仲じゃない。

こうやって泣いている彼女を慰めて満足という感情に浸っている自分に吐き気がする。大切な女を泣かせて喜んでるなんてキチガイもいいとこだ。












「シャル君、これ、あげる。」

真っ赤な目は少し落ち着きを取り戻して俺の顔を見上げた。

「本当はね、だんちょ・・に買ったんだけど。いらないって。」

高級さが漂う黒い箱に金と銀のシーリングワックス、金に刻まれたエンブレムは何度も見たことのある店のもの「ブラックマリア」、銀のシーリングワックスには製作パティシエの刻印が刻まれている。



突き返された理由はコレか・・・。

他の女からのプレゼントは一応持って返ってくるくせに、受け取ってさえ貰えなかったは、団長にとって自分はそこら辺の女以下だと考えただろう。

そうゆうわけじゃないんだけどな、完璧に店と製作者の選択を間違えたみたい。


、14日まだ空いてる?」

膝の上に置かれたまだ微かに震える手を取って自分の手の中に包み込んだ。それは思った以上に冷たくて、まるで氷を握っているようだ。

「え、う、うん。」

「・・・俺じゃダメかな、14日の相手。」

映画行こうよ、と傷ついて帰ってくるを誘うために用意してあったチケットをポケットの中で握り潰す。

彼女の前ではこれ以上卑怯者でいたくない。彼女の手を包んでいる自分の手が緊張に震えた。










このあと彼女が一度頷いてくれたら、次のバレンタインまで団長に負けないように努力しようと思う。






来年は、が俺に本命チョコを贈ってくれることを願って。